雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

セサールと寺井君

 セサール・カニャスと寺井一希、バイクトライアルの頂点の二人を撮影してきた。バイクトライアル連盟のお仕事だったのだけど、寺井くんとは久しぶり。セサールとはちゃんとお話したこともなかったので、今回はちょっと楽しみなお仕事でした。


 神門くんに迎えにきてもらって、八王子のホテルにセサールを迎えに行く。今回サセールは「第2回徳光&所の世界記録工場」に出演、ハードルジャンプでのバイクトライアル世界記録に挑戦するのだが、その前日にお仕事してもらおうという魂胆。8回の世界チャンピオンにそんな強行軍をさせていいのかと思うけど、セサールはにこにこ顔だ。世界記録の審判を務めるマイクさんも同行した。
 ホテルのフロントで出会ったセサールは、もうずいぶん髪の毛も薄くなっていた。オット・ピの髪の毛のなくなり方は貫録ものだったけど、サセールはオットよりも身長も低いこともあって、気のいい兄ちゃんという印象。ライダーの多くがそうであるように、チャンピオンの風格はかけらもない。クロークに預けておいた彼の自転車をクルマまで運ぶ大役を仰せつかったが(なんとなく、転がしてっちゃいけないような気がして、かかえて持っていきました)、セサール本人よりも自転車のほうが存在感があった。
 目的地は奥多摩の渓流。フリーロッククライミングを楽しんでいる人たちもいて、あっちはあっちで黙々と岩に取り組んでいる。こっちもやっぱり岩に取り組んでいるんだが、なんせスペイン人だから空気が明るい(スペイン人1名、日本人4名、カナダ人1名がこちらの勢力)。
 セサールは押しも押されぬバイクトライアル・キングだし、そのセサールも一目置くのが日本の寺井一希。結果表を見ると「まだまだだなぁ」なんて思うかもしれないけど、かつての藤波とランプキンと同じく、結果表だけでは語れないものは多い。セサールの持っているもので寺井が持っていないものはまだあるけれど、世界中で寺井だけしか使えないテクニックがあるのも確かなのだ。
 まぁこんなふたりの共演だから、撮影がうまくいかないわけがない。一番素人なのがぼくってわけで、ちょっと緊張しました。こういう緊張は、トップライダーを取材する時にはいつも感じるべきことなんだろうけど、慣れってのは恐ろしい。こういう時に、新鮮な感情を持てるのはうれしい。
 しかしてスペイン人は、こんな撮影に緊張感なんかかけらも感じていない様子。では手抜きかといえばそんなことはなくて、朝ホテルのフロントで出会った人と同一人物かと思うほど、ヘルメットをかぶったセサールにはピリリとした緊張感が漂っていた。近寄りがたいのはライディング中で、それ以外はいたってフレンドリーなのがスペイン人のメンタリティ。気持ちの切り替えが苦手なワタクシメだと、緊張していようと思うと朝から晩まで緊張していないといけない。人種がちがうのかなぁと痛感するひとときだった。
 撮影は2時間ほど続いた。日本人わりとしつこいタイプなので、あれやこれやとネタを見つけて撮影を続けようとする(ぼくもしつこいタイプだけど、コーディネーター役の神之門くんがもっとしつこかった)。するってーとスペイン人は、その緊張感はどこへやら「今日はもういろんなシーンを撮ったし、よい瞬間も撮れた。そろそろ終わりにしてもいいんじゃないか」と言い出した。熱しやすく、冷めやすいタイプっていうんだろうか。こちら日本人勢はスロースターターでしつこいわけなんで、水と油だった。水と油のわりには、本日の撮影はうまくいったほうだった。
 思うに、熱しやすく冷めやすいスペイン人が、トライアルのスタートからゴールまで、ポイントをきちんと抑えて緊張感を維持しているのは、そのメンタリティを考えるとすごい偉業だ。1日中集中し続けていることはないんだろうけど、集中のし方、手の抜き方、気の抜き方は、彼らに学ぶことはまだまだ多い気がする。少なくともぼくは、多いに学びたいものなのでありました。
 写真は珍しく本文と関係のあるセサール・カニャス(上)と寺井一希(下)。たくさん撮影した中で、一番パンチのない1枚