雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

山道の探索


両神山を望む。一ノ瀬泰造の映画で遠くに霞むアンコールワットに憧れるシーンがあったけど、そんな気分。

秩父の山奥に引っ越して、数ヶ月になる。いろんな魂胆があっての引っ越しで、ほんとうはいろいろ報告したいことがいっぱいあるんだけど、タイミングの善し悪しとか大人の判断とかいろいろあるし、まだもろもろ手探り状態なので、なかなか発表できるものがない。でも山奥に引っ越したという報告だけだと、夜逃げでもしたんじゃないかと思われそうなので、ちょっとだけ近況をお知らせしておきます。

この町では、オートバイによるまちおこし事業の計画があります。もちろん、計画があるだけで、ほんとうにうまくいくかどうかはわかんない。計画なんて、100個あってひとつ実現すれば立派なものだと思いますが、オートバイの世界の人には被害妄想を持っている人も多いので「計画挫折」の報告はあまりしたくない。どんどん絶望感にさいなまれていきそうだからね。というわけで、計画が実現間近になるまで、なかなか報告ができないってことになる。これは半分愚痴です。

まちおこし事業の中にはいろんなのがあるんだけど、そのひとつに、トレッキングコースを作れないかというのがある。トレッキングコースといっても、トライアルコースや、一部のマニアが喜ぶような「ゲロ道(気持ちはわかるけど、ぼくはこの命名が大きらいだ。マニアの世界にはいじめることを楽しませる、と言い換える風潮がよくある。気持ちはわかるけど、こういうのが入り口を狭めているにちがいないと思うんだけどね)」はお呼びでない。どんなレベルの人でも(ある程度)快適に走れて、気持ちよさを享受できるような道がいい。その道は、ブルドーザーで建設すればいいってもんじゃない。自然のままの楽しい道がどこにあるのか、どんな道が楽しいのか、またそこは走ってもいいところなのか、いけないのか、どんな人を受け入れていくのか、そういうのをあれやこれやと考えていくことすべてが“トレッキングコース建設”に含まれる。

探索中のぼくたち
探索中のぼくたち
探索中のぼくたち。町のKさんはこのためにTYR-Sをレストアした

この町には、今のところ本格的トライアルライダーはいない。なんと、ぼくがトップライダーだ(すぐ近所には元B級チャンピオンの米沢さん、世界ジュニアチャンピオンの野崎史高、自転車チャンピオンの寺井一希など、雲の上の存在がごろごろといる)。で、町のオートバイ乗りを誘って、少しずつ山歩きをして道を探索している。ぼくが走れるところだから、まるで難攻不落じゃない。それでもオフロードライディングの経験が少ない人たちには、スリルたっぷりのエキサイティングな経験のようだ。

当初は、それなりに“楽しい”道を探さないといけないと思っていたけど、トライアル素人さんたちの楽しみっぷりを見ていると、いわゆるトライアルコースを用意する必要は断じてないとわかる。トライアルはマニアックすぎて、ついつい世間の人々の存在を忘れてしまうのがよろしくない。

こういう活動は、なーんとなくだけど、役場と連絡をとりながらやっている。ほんとは腕章でももらってお墨付きで道さがしをしたいところだけど、世の中はそんなに甘くないのだ。それに腕章がほしいのは、実は「オマエ、おれの庭でなにやってんだ」と怒られるのがこわいからで、自分のオートバイ遊びが誰に見られても困らないなら、お墨付きなんかいらない。それで、道さがしは同時に“誰に見られても困らないオートバイ遊びとはなにか”という命題に発展する。この命題は、ちょっと大きい。

山の中には、林業を営む人が植林や木材の切り出しのためにつくった道があり、また古くから道として使われていたものもある。舗装道路の発達で放置されているものもあれば、このあたりは巡礼やハイキングが盛んなので、そういう用途で現代に生かされている道もある。こういった道は、明確に立ち入り禁止の表示がなければ、どの道も思わずつい入ってしまえる。でも、人の家へのアクセス道路だったりまるっきりの登山道だったりした場合は、あっさりあきらめて引き返す決断が必要だ。さらに、最近では引き返すだけじゃなく、そこに住む人や歩く人に出会って、あいさつを交わして引き返すのが大事かなと思いはじめた。走りたい盛りのライダーにはめんどくさいけど、そこでしばしお話しをしたりすると、結局その方が話はうまく進む。いつもオートバイが逃げていく後ろ姿だけを見せられていたとしたら、オートバイに対していい印象なんか持ってもらえるわけがない。

道を散策しながら、この土地の持ち主は誰だろう、どんな人だろう、どうしたら、ぼくらが遊べるようにもっていけるだろうか、ここに住む動物たちは、どこに潜んでいて、どんなものを食べているのだろう……。山の中で目を凝らすと、いろんなものが見えてくる。トレッキングコースの開拓はそんなに簡単には進まないから、こうやって周囲のいろんなことを観察しながら作業していると、これもまたトライアル遊びのおもしろみだと思えるようになってきた。草木の成育状態や、地域の歴史を研究してみるのも、悪くない。ちょっとだけでも、そういう知識を仕入れて山を走ると、今までとちがう風景が見えてきたりするので、また楽しい。

当面の課題は、山道をほじくり返さないように、町のみんなにやさしいアクセルワークを知ってもらうことと、引き返すときに苦労しないように、せめて足をつきながらでも前輪をぽんぽんと振れるようになってもらうこと。それができるようになったら、もうふつうのオートバイ乗りは卒業しちゃって、ぼくには相手ができない強者になっちゃうかもしれないけども。

ペップ父親になる
ペップ娘

そうそう、この前の日記に写真で紹介したペップ・セガレスだけど、無事に赤ちゃんが産まれた。親ばかの最初の儀式として大喜びで写真を送ってきたので、みなさんにもぜひ見てもらいましょう。

赤ちゃんは「Itziar Segales」って名前だそうだ。そういえば、杉谷と3人でSKYPEチャットをしながら、Itziarはなんと発音したらいいんだろうと悩んだっけな。以下、前回「名前のお詫び」参照のこと。