4月14日、全日本選手権第2戦は大分県玖珠町の山の中、玖珠トライアルヒルズで開催された。今回は初めての記録がいっぱい。IASではデビュー2戦目の武田呼人が初表彰台。IAでは成田匠がEVでの初勝利。そして宮澤陽斗、髙橋寛冴が初表彰台を獲得した。
天候は良好。良好すぎて、あわや夏日かというあたたかさ。ほとんどのセクションは林の中で涼しげだったが、空の広いセクションはちょっと汗をかかされた感じだった。
セクションはそそり立つ高さのあるような設定はごく少なかったが、どれもこれも地味にむずかしいものばかり。しかもポイントが多く、1分の制限時間内に走りきるのが厳しいセクションが並んでいた。それでも、前半第4セクションまでと、最終第10セクションはクリーンが出せそうな設定だった。第5から第9までは、なかなか厳しい。
地理的には、山のてっぺんにパドックと本部があり、いちだん下がったところに第1、第2、第10。そこから右方向に下ると第3と第4、さらにその下にSS第1とSS第2。左方向に降りきると、第5から第9までの難セクション。一番下が第6セクションになる。本部とパドックのあるてっぺんにはセクションはない。全セクションを見るには、第4から第5までの下りと、第9から第10までの上りがお客さんにとっては苦行となったが、やってやれなくはない苦行。ただ第1や第10まで戻らないとトイレもない、電波も(ほぼ)ないという環境なのは厳しかった。第6まで軽トラはなんとか来れていたみたいだから、大切な女性観客層のためにトイレは設置してほしかったなぁ。第1や第10から本部までの登りもきつかったけど、基本的にはそこはクルマに帰るだけだから、楽しかったねと話をしながら登ればるんるんです(ほんとか?)。
国際A級スーパーでは、小川友幸のコンセントレーションが光っていた。試合運びもコンディションも完全ではなかったということだが、その状態でこれだけの走りを引きだし、最小限点で試合を乗り切るのは、やっぱり小川友幸の小川友幸たるところだ。1ラップ目、クリーンセクションのはずの第4セクションでゲート接触をとられて5点になっているが、それでも小川の5点は5個で、ライバルの誰よりも少ない。1ラップ目第8セクションでの3点は、ここを抜けたこの日唯一のスコアとなっている。
開幕戦では、SSに入る時点で小川のリードは9点だったが、今回は5点。勝負はまだ決まってはいないが、どちらも勝利に向けて一応のリードは保っていた。しかし開幕戦では、直前にトライした黒山がSS第1で5点となって優勝が決まると、小川はSSのふたつで両方5点の失敗を喫した。5点になったところで勝利は決まっているのだが、それでも小川らしくない。本人も、それがいたく不満だった。今回は5点差で、SS第1を黒山が1点で抜けたところでまだ勝負はつかず。小川は気合い充分にSS第1にトライ。柴田暁に続いて二人目のクリーンをたたき出した。これで勝負あった。6点差で小川の勝利が決まった。しかし小川の集中力は途切れなかった。SS第2のクリーンは小川毅士、武田呼人、小川友幸の3人。二つのSSを共にクリーンしたのは、小川友幸、ただひとりだった。
2連勝の小川に続いて、開幕2戦続けて2位となったのが黒山健一。唯一のヤマハEVライダーだった昨年から、一気に3人のライダーがTY-Eに乗ることになった2024年。個人としてもチームとしても、そろそろ初勝利がほしい。黒山にすれば、それはTY-Eライダーとしての先駆者である自分が務めたいと黒山は思う。1ラップ目、黒山はトップだった。結果的には、その順位を守れず、2位に甘んじた、ということになる。勝負のむずかしさもさることながら、黒山にはまだまだ課題がある。TY-Eの持つ能力をライディングに生かしきるノウハウが、いまだ完全とはいえない。そんな葛藤とともに戦っている黒山だから、そのいくつかが改善されるだけで、小川友幸との6点差は簡単につめられそうなのだが、その日は次の戦いか、あるいは? 黒山が1ラップ目に1点をたたき出した第9セクションは、黒山の2ラップ目も含めて、全員が5点だった。
3位表彰台は快挙だった。武田呼人。途中4年間のスペイン留学をはさんではいるが、IAチャンピオンとなってIASにデビューして2戦目にしての表彰台獲得だった。ただし武田は、開幕戦の下りながらのアウトでアクセルが開きっぱなしになってしまい、ひざに大けがを負っている。その状態で、1ラップ目の大半をトップで走った。1ラップ目の武田は3点のタイムオーバーがあって4位ということになったが、優勝争いの実力を持つのは、もはや誰の目にも明らかだ。SSが始まる段階では、優勝のチャンスもほんの少しあったのだが、SS第1での5点でそれは夢と消えた。逆に4位に落ちるかという背水の陣だったのだが、SS第2をきっちりクリーンして、見事なる表彰台獲得だった。ランキングも、氏川政哉に1ポイント差の4位となっている。
その武田と、SSで3位争いをしたのが柴田暁だった。SS前の段階での49点は黒山と4点差だから、優勝まではむずかしいにしても(可能性はある)、2位は射程範囲だった。難セクションの第5を2ラップとも抜けたのは素晴らしかったが、第1で5点となっていて、全体的には調子のいいときの柴田の勢いは感じられない。ところがSSに入るや、柴田らしさが炸裂した。助走が掘れて発進が厳しくなったポイントを、するすると加速して大岩に飛び移り、初めての クリーン。この勢いに乗じてSS第2を抜けきれば、柴田の3位が確定だったのだが、なんと、最後の最後までクリーンしていながらフロントが突き刺さって足をついたところが滑って転倒。再び表彰台を武田に明け渡して4位となった。
SS前の段階で、氏川政哉は3位の武田に2点差だったから、SSでの逆転は充分に考えられた。しかし氏川はSS第1で5点。柴田がミラクルなうまさを見せた大岩の発進でミスをして、岩には登れずだった。これで氏川は毅士との3点のアドバンテージを放出して、さらにSS第2の3点で6位転落を決定づけてしまった。TY-E初優勝候補最右翼の氏川だったが、開幕3位、第2戦6位と、EVへの乗り換えの余波は、人並みに続いているようだ。
小川毅士は、序盤はしっかり点数をまとめていたのだが、クリーンセクションの第4でゲート接触となったのが痛かった。第5で1点、第6で3点など光るところは見せつつ、2ラップを終えると6位。SSを2点とクリーンで抜けて、氏川を逆転して5位で試合を終えている。野崎史高は開幕戦同様に1ラップ目がよろしくない。前回はラップ10位、今回はラップ9位だ。トップにとってはクリーン必須のはずの序盤4セクションで3連続5点を献上したのは致命的だった。それでも2ラップ目にラップ2位のスコアをたたき出しているから、最初からこのペースで乗れればと思うと残念だが、そのスコアからはTY-Eの潜在能力の高さとともに、乗り換えのむずかしさが見て取れる。
野崎に4点差の8位が久岡孝二、さらにその3点差で野本佳章。久岡は、1ラップ目第2、2ラップ目第1での5点が痛かった。野本はアシスタントなしで、とっとことっとこ先を急ぐ。今回、IAとIASのスタートには20分強のインターバルが設けられていたが、野本は先行するIAをも抜いて2ラップを回った。このハイペースはなかなかマネできない。しかも出るべきセクションはしっかり出ている。それでSS出場を果たしたのだから、やはりタダモノではない。ちなみに、比較的難度の低い序盤4セクションと最終10セクションの5つのセクションのみのスコアを集計すると、野本は6位となる。
SSに残った最後の一人は武井誠也だった。開幕戦で痛めた足の痛みはまだ残っているが、それでも果敢にせめて10位を死守した。今年はトップ争い、6位入賞争い、SS進出争いがいずれも大接戦。息の抜けない戦いが続くが、足の負傷の回復とともに、武井もさらに調子を上げていくことだろう。
SS進出を逃した11位は磯谷玲。磯谷も開幕戦で靭帯を切っている。それでこの成績だから、大健闘といったところだ。弟の郁も、骨折した足首をおして参加、14位でポイントを獲得した。12位は磯谷と同点、1点の数で敗した田中善弘。13位は、2ラップ目最終セクションでのクリーンが、この日の初クリーンとなった岡村将敏。磯谷郁と同点同クリーンで、1点のなかった平田雅裕が15位で最後のポイントを獲得した。
16位以下は濵邉伶と浦山瑞希。浦山はIASデビュー2戦目、いまだIASの高い壁を上る過程にいる。
国際A級・レディース・国際B級・オープントロフィーIA50
国際A級は、1ラップ目にトップだった若い宮澤陽斗を2ラップ目に逆転して、大ベテランの全日本チャンピオン、成田匠が勝利を得た。成田が乗るのはフランス製のEM。全日本選手権トライアルでEVが勝利するのはこれが初めて。日本ではヤマハがEVのパイオニア的存在となっているが、世界的EV先駆者はEM。クラスはちがえど、EMがまず歴史を刻んだ。
初優勝こそ逃したものの、宮澤は自身初表彰台(3位以内)、そしてもちろん自己最高位。大ベテランを相手に、いよいよ頂点を目指して戦う壇上に上がった。もう一人、同じ関東の髙橋寛冴も初めての3位表彰台。これまでの最高位は9位だったから、一気に入賞、表彰台に駒を進めたことになる。4位は成田亮。もちろんマシンはEM。匠、亮ともに、開幕戦の成績を上回ってきた。5位がゼッケン1の砂田真彦。ここまで上位5人は全員関東勢だ。6位に、開幕戦の勝利者、平田貴裕。1ラップ目1セクション2セクションとミスが出て、2ラップ目に挽回してこのポジションを得た。
地元九州勢は、11位坂井翔が最上位、12位に松浦翼、13位に徳丸新伍、14位西和陽と4人がきれいに並んだ。久々登場の塩月匠は19位と惜しくもポイント獲得はならなかった。
ランキングは成田がトップ、平田が2位で、3位に宮澤が浮上した。現在のところ、上位10名のうち8名までが関東勢だ。
レディースは上位3名が大接戦。1ラップ目から、1位から3位までがそれぞれ1点差に並んだ。2ラップ目、IASの1ラップ目にぶつかってペースがつかみきれず、持ち時間の確保に苦しむライダーが多かったが、これもある意味勝負の分かれ道となった。優勝した山森あゆ菜はタイムオーバー4点。タイムオーバーのない中川瑠菜は同点ながらクリーンをひとつもとれなかったことで山森に勝ちを譲った。開幕戦と順位がひっくり返ったことで、両者のランキングポイントは同点。開幕戦は高校生ワンツーだったが、今回は大学生ワンツー。この流れが、今シーズンは続くことになるのか。
若い二人になんとか切り込みたい小玉絵里加だったが、2点差で3位となった。ほんのわずかな差なのだが、その差を縮めるのは意外にむずかしい。4位齋藤由美、5位ソアレス米澤ジェシカ。そして今シーズンのニューフェイス、高校生になった兼田歩佳は、前回リタイヤに続いて今回は失格。タイムコントロールもトライアルのテクニックのうちだが、なかなか完走までの道が遠い。
国際B級は、開幕戦勝利の髙橋淳が、1ラップ目にオールクリーンして試合の流れを決定づけた。2ラップ目、レディース同様に渋滞にのまれていくつかのセクションを申告5点で逃げることになったが、それでも2位に11点差で逃げきった。元IAだから勝って当然とも写るが、誰にとっても勝利は簡単に手に入るものではない。
2位は前回同様永久保圭。3位には鹿児島の後藤研一が入った。台湾の陳マオは今回は4位。5位にも、後藤と同様、鹿児島の福留翔太が入った。
今回も、渋滞は試合の流れの一つの鍵になった。競技としては、それをうまくコントロールするのも技のうちだからそれはそれ、という気はするけれど、IASのセクションはポイントが多くて1分では走りきれずと、最初から3点を狙うライダーも多かった。お客さんにどんなトライを見せられるかは、大会主催側である程度コントロールできることだから(とてもむずかしいことですけど)今回のセクションがベストだったのかというと、ちょっと疑問はある。ひとつひとつのセクションは素晴らしかったし全員が5点となったセクションも皆無で見ごたえもたっぷりだった(第5〜第9までの5セクションは、IASの17人がかかってクリーンはたった二つだった)。
しかし、楽ではない観客通路を歩いて谷底までたどりついたお客さんが、申告5点でセクションを抜けていくライダーを見守らなければいけなくなるのはなんとも切ない。お願いだ。申告5点は廃止にするか、申告5点でなく10点とかにしてください。申告5点で先を急ぐ時には、そこで待っているお客さんにライダーが入場料をお返しするシステムがあってもいい(冗談です)。競技の公平性うんぬんの問題ではなく、熱心に通ってくれるお客さんのことを考えて大会運営してほしいし、ルールもそうなってほしい。これは今回大会に限らず、全日本選手権トップクラスの戦いに共通する課題だと思う。険しい観客路を酷評する人は多いけれど、自然相手のトライアルだから、これはある意味しかたないと思う。けどヨーロッパの世界選手権なら、お客さんがはるばるやってきた第6セクションあたりに、必ずハンバーガー屋さんとビールサーバーがあって、お肉をがんがん焼いて香ばしい香りを発散させている。第6セクションまで降りてきたお客さんが、トイレに行くのに第10セクションまで戻らなければいけないというのは、拷問以外のなにものでもないし、たぶんトイレに行ったお客さんはもう一度第6まで降りてくることはないだろう。素晴らしい会場での全日本は続けてほしいから、ぜひがんばってください。
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