7月14日、北海道わっさむサーキットにて全日本選手権第4戦。前戦もてぎ大会でシーズン初優勝、そして全日本IASでEV初優勝として氏川政哉が、今回も勝利。前回に続いて、安定リードを築いての勝利だった。氏川は全日本2連勝。氏川の連勝はこれが初めてだ。もちろんヤマハTY-Eも初の2連勝。
2位には野崎史高が入った。氏川ばかりに勝利を独占されてはならぬ、次は自分、との気迫がこもったトライぶりだったが、2ラップ目の第4セクションで靭帯を損傷したと思われる大クラッシュ。それでも最後まで2位を譲らず、ヤマハTY-Eのワンツーフィニッシュ達成の立役者となった。
野崎には1点差で3位は小川毅士。小川はシーズン初表彰台。第3と第5を両ラップ5点としたが、それ以外は3点で抜けた。皮算用をすれば、第3と第5を除けばダントツのトップ。SS第2をクリーンすれば2位だったが、最後の最後で走りを乱し、あわやタイムオーバー5点の1点で3位表彰台に甘んじた。
小川毅士に同点クリーン数差で4位になった柴田暁は、1ラップ目は好調の2位。1ラップ目のクリーンは最多だった。しかし2ラップ目、3つの5点で安定の2位が野崎、小川毅士との三つどもえの表彰台争いとなった。難セクションのSS第1をクリーンして2位を確固たるものにしてのSS第2、クリーンの可能性はこちらの方がはるかに高かっただが、柴田はセクション序盤の飛び石で前転。表彰台も逃してしまった。
黒山健一は、どうしたことかという不調ぶり。特に、トップグループにほとんど減点がない第8以降に5点がふたつもあったのは痛かった。黒山によると、今回はマシンセッティングを完全にまちがえたということだった。黒山が表彰台をはずすのは今シーズン初めて。ランキングは2位から、2位と同ポイントの3位となったが、トップとも5ポイント差。チャンピオン獲得の可能性は充分に残っている。
前回5位となってかつてない不調と驚かれた小川友幸は、6位となった。ワースト記録更新だ。1ラップ目に4つの5点は信じられない感じだった。2ラップ目はラップ3位で追い上げたが、減点は11点あって、逆転はできず。マシンがどうしても自分好みに仕上げられず、そのまま試合に臨まなければいけなくなったのが敗因という。これで小川は、ここまで守っていたランキングトップの座を氏川に譲り、ランキング3位の黒山にポイント数で並ばれることになった。
小川友幸との6位争いに敗れたのは武田呼人。開幕戦で靭帯を損傷している武田は、シーズン終了を待たずに手術を受けることを決断したというが、その影響はまず感じられない走りっぷり。SSを前に、小川友幸には2点差をつけていたのだが、武田はなんとSSをふたつとも5点となって、自ら6位の座を小川友幸に明け渡してしまった。
武田には11点差をつけられたものの、8位には黒山陣が入った。世界選手権に遠征、いい経験をして帰国した黒山が、開幕戦に続いてSSに進出、さらに順位を上げてのフィニッシュとなった。第2セクション、そしてSS第1と、最初に走破して、場の注目を集めることになった。上位陣との点差をつめて、黒山が表彰台に進出する日も遠くないかもしれない。
9位は久岡孝二。SS進出の10位以内はともかく、9位争いは武井誠也と接戦だった。武井が5点になったSS第2でのクリーンが勝負を決めた。このクリーンで、久岡は4点差の9位。久岡はランキング8位をキープしている。
4戦続けて10位が武井誠也。ライバルが増えて、ゼッケン通りの順位をキープするのがむずかしくなっている。武井のパフォーマンスは向上中だから、順位が落ち着いてしまっているのがはがゆいところだ。
今回の参加は17名。10名がSSに進出し、ポイントをとり逃すのがたった二人という厳しい戦いだ。11位に田中善弘。2ラップ目の追い上げも、11点差でSS進出はならず。
そして12位に入ったのが浦山瑞希。コースではないかと揶揄された第1セクションで唯一減点してしまったが、1ラップを終わってみれば11位。ここまで3戦、ポイント圏外が続いていたが、ようやくポイントランカーの仲間入りをはした。これを機に、東北のルーキーがポジションを上げていけるか、若い才能は目が離せない。
岡村将敏、濵邉伶、磯谷玲がポイント圏の13位〜15位を占め、磯谷郁、平田雅裕がノーポイントとなった。
北海道での戦いは、シーズンを占う重要な一戦となる。シーズンのど真ん中の戦いで、例年、ここでシーズンの流れが決まることが多い。今回の戦いが、シーズンの行方を決定づけるのか、それとも……?
リザルトを見る限り、いよいよ世代交替かという結果になったが、身体能力の衰えをどうコントロールしていくかについても、黒山は素人はだしでバレーでフィジカルコンディションの維持にも努めているし、小川は痛んだ身体をうまくマネージメントする能力を日々は絶品。二人とも、今回の敗因はマシンを仕上げられなかったということだ。
小川が乗るのはホンダのワークスマシンで、ポテンシャルは世界チャンピオン級だが、セッティングやマシンのマネージメントの面では大きなハンディを背負っている。これまでも、こういうことはままあった。つまり復活の可能性は大いにある。開幕2連勝から一転、ランキングトップは奪われてしまったものの「去年は北海道の時点でもっと大差をつけられていた。この時点での5ポイント差は、去年より情況がいいと考えられる」と、小川のチャンピオン争いはここから再スタートするようだ。
もうひとつ、小川の敗因には、まわりがみんなEVになったことにあるのではないかという見方がある。これまでライバルはホンダだったりヤマハだったり、4ストロークが多かった。ところが今年、いきなり直近のライバルはEVばかりで、4ストロークマシンはトップ6にはいなくなってしまった。一番最後からみんなの走りを観察し、さまざまな情報を収集していた小川にとって、2ストロークならまだしも、まるきり土俵のちがうEVからどんな情報を得るのか。それは意外にむずかしいことかもしれない。もちろん開幕2戦はそれで勝利を飾っているし、新たな情況への対策もたてているにちがいない。
黒山はセッティングの大失敗だったと語った。ヤマハTY-Eは黒山、野崎、氏川の3人に与えられていて、基本的仕様は同一。しかしハンドルやステップ一はもちろんのこと、フライホイール重量や伝記的セッティングは、3人がそれぞれ自分に合ったものを模索して、マシンに反映させている。そんな中、黒山はファクトリーレーシングチームに所属している。3人の中では、唯一生粋のファクトリーライダーだ。氏川や野崎が勝つのはヤマハの朗報にはちがいないが、ほんとうは黒山が勝つのが一番うれしい。そんな背景も関係したのだろうか。黒山はこの大会に向けて大きなチャレンジをした。チャレンジというより、確証があっての仕様変更だったのだろうが、これはまったく裏目だった。TY-E仲間もおきざりにして圧倒的強さを発揮する予定が、ここまで3戦連続2位という安定感も返上することになった。
黒山と北海道はどうも相性が良くない印象が強いが、しようが裏目ならひっくり返せば抜群の結果が出るということでもある。若さとの戦い、長年のライバルとの戦い、エンジンとの戦い。黒山のチャレンジは、ここからシフトアップする。
4戦を終えて、トップ3人のランキングポイント差が5点というのは、まず横一線に等しい。EVの初タイトルとなるのか、史上最多のチャンピオンが記録を更新するか、ベテランと若手の戦いはどちらに軍配が上がるのか。残り4戦は見逃せない。
成田匠、ニューマシンで3連勝
国際A級は、成田匠が連勝記録を伸ばした。1ラップ目は1点で、これなら勝てるかと思いきや、2ラップ目に3ヶ所で失点、計5点の減点があって、勝負の行方は結果待ちになった。リザルトが出ると、上位陣で2ラップ目に1ラップ目のスコアを改善できたライダーはおらず、成田はほぼダブルスコアの差をつけて勝利した。
今回成田が乗ったのは、トライアルGP日本大会でデビューした新しいFACTOR-eなる新型車。トライアルGPを走ったマシンはそのまま日本に残されたのだが、成田が乗ったのはガエル・シャタニュが乗ったものではなく、マインダー車のほう。シャタニュのマシンは電圧の高いカテゴリーで、これを全日本で走らせるには手続きがいろいろたいへん(ヤマハTY-Eはその手続きを踏んでいる)。マインダー車はすでに市販が始まっているスタンダードなので、そのへんの手続きが(比較的)簡単ということだ。スタンダードとはいえ、FACTOR-e(ファクター・イーと綴ってファクトリーと読ませるフランスのエスプリ的ネーミング)は新開発モーターを搭載した未来のEV。4速ミッションを装備しているが、このマシンの真骨頂はモーターとその特性にある。奥が深くて、並の国際A級ライダーではそのポテンシャルを味わいきることはできないという。ともあれ、成田はこのニューマシンで勝利。シャタニュはトライアルGPデビュー戦で2位入賞をはたしたが、成田は全日本でこのマシンをデビューウィンに導いた。
2位は開幕戦の勝利以来の表彰台となった平田貴裕、3位にミッションのない従来型EM E PUREに乗った成田亮。亮のEMでの初表彰台と同時に、表彰台の2席をEVが占めることになった。IAS、IAともに表彰台3席のうち2席がEVということで、EVの表彰台獲得率66.666%と、すごいことになっている。
4位は北海道大会優勝経験もある小野貴史、5位に20歳の宮澤陽斗。宮澤は超神経戦となった今回、うまく減点をまとめられずに苦戦したが、ランキング3位はキープ。IAS参戦の権利を得られるランキング5位までで、唯一の若手が宮澤となっている。
中川瑠菜がシーズン2勝目。ランキング争いは熾烈
中部の女子大生コンビ、中川瑠菜と山森あゆ菜の優勝争いが大接戦だった。1ラップ目、序盤に5点を取って苦境に立った山森だったが、その後は大きな失敗はなくラップ12点で試合を折り返した。対して中川は第6セクションまでクリーンを続けたが、終盤4セクションで3点、5点と減点して、1ラップ目は11点。1点差で2ラップ目の勝負に出た。
2ラップ目、いまひとついい調子に持っていけない山森に対し、次々にクリーンをたたき出す中川。山森の13点に対し、中川は4点で、トータル10点差をつけて中川の勝利となった。10点差も大きいが、クリーン数も大差。山森のクリーン9(それでも他選手よりは多い)に対して、中川のクリーンは15にもなる。今回は中川の圧勝だった。
ランキング争いは熾烈。中川と山森はそれぞれ2勝ずつを上げているが、山森が残る2戦を2位としているのに対し、中川は2位と3位。現在のところ、2位と3位のポイント差がそのまま両者のポイント差となって、山森がランキングトップを守っている。
今回の3位は2ラップ目に好スコアをマークした米澤ジェシカ。ランキングのトップ争いと同様、米澤と小玉絵里加のランキング3位争いはたった1ポイント差と、こちらも大接戦となっている。
今回のレディースセクションは国際B級とほぼ同じで、レディースクラスとしては難度が高かった。中川と小玉はIBで、山森、米澤、齋藤由美はNAライダーで、加藤里沙(全日本初登場)と木村亜紀はNBライダーだから、セクション走破はなかなかたいへんだったと思われるも、全員無事乾燥して、加藤も木村もクリーンを出して健闘した。
髙橋淳に土がつく。永久保圭が最年少で初優勝。
国際B級も1点を争う神経戦となった。1ラップ目、1点のみで回ってきたライダーが二人いた。永久保圭12歳と、ここまで3連勝している髙橋淳だ。どちらもこの日もっともクリーンの出しにくいセクションだった第5での減点だった。
2ラップ目、永久保は1ラップ目にクリーンしている第7で痛恨の2点(下の写真はその第7でのもの)。ところが高橋は、1ラップ目に1点減点した第5で取り返しのつかない5点を喫していた。
3位のチェン・ウェンマオは8点だから、トップ争いは独走ではあったが、高橋は5点一つで、永久保にダブルスコアで敗れることになった。永久保は初優勝。2020年に黒山陣が10歳で3位表彰台、2022年に黒山太陽が10歳で2位表彰台、2021年に浦山瑞希が13歳で3連勝しているが、12歳での優勝は最年少記録(と思われる)。これで高橋の全勝はなくなったが、ランキングでは以前14ポイント差で独走状態が続いている。
その他、今回はオープントロフィーNAが併催。北海道・東北のNAライダー6名が参加した。