雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

トライアルク開催

0901トライアルク追いかける

 1月18日、好天の相模川河川敷で「トライアルク」を開催しました。トライアルと歩くをくっつけた造語がトライアルクで、セクションとセクションを移動するのに、オートバイじゃなくて自分の足を使います。運動不足を解消するのが目的じゃなくて、マシン不足を解消するのが目的です。で、トライアルマシンにさわったことのない多くの人に、トライアルを体験してもらおうというのが、トライアルクです。
 マシンはずらり、ガスガスの新型(09モデルと08モデル。一部05モデルなど)が勢ぞろい。でも新型車の試乗が目的じゃない。今日は「はじめてのおつかい」ならぬ「はじめてのトライアルマシン」。


 もともと、このアイデアは、トライアル界にこの人ありの重鎮、声の大きなカメラマンの鈴木雅雄さん通称JOPPA(鈴木さんの故郷の方言で、うるさいやつ、頑固者を“じょっぱり”というそうで)が、もう20年前から仲間内の交流イベントで採用しているシステムです。

0901トライアルクトライアルを説明する

トライアルを説明するの図

 セクションには、それぞれマシンが置いてある。参加者が歩いていくとセクションがあって、それぞれちがうマシンが待っているわけ。
 その模様については、いまからもう15年近く前のイベントの様子をレポートしたのがあるので、そちらをごらんください。「ジャーナリストたちのトライアル」です。セクションごとに異なるマシンに乗るというのは、熟練者でも(熟練者だからこそ、かも?)むずかしくて、クラブの仲間の対抗戦などに採用したらおもしろいかもしれません。ところどころに自転車とかスーパーカブを混ぜると、なお深い味わいが楽しめます。
 さてしかし、これは仲間内の親睦が目的の大会システムだったのですが、これこそ敷居が高いといわれているトライアルを救うシステムだと気がついたのがガスガスの輸入元、亜路欧の萩原壮亮さん。もともとこのシステムの大きな特徴は、少ないマシンで多くの参加者が楽しめるというところがミソ。セクションが15個だったら、マシンも15台ですみます。

 本来トライアルは、マシンとライダーの信頼性を競う競技です。スタートからゴールまで、安全確実にマシンを進めるのが前提で、セクションのみが競技ではありません。でも、そんなコアなトライアルばかりでは「トライアル、やってみようかなぁ」という人の取りつく島がない。ええい、ままよ、ここではトライアルにはセクションだけあればいいという暴挙のもと、トライアルクは成立しています。

 もともと、エンデューロとトライアルは、一卵性双生児のようなもの。SSDT発祥の昔々に、スピードを競うエンデューロと、技術の正確性を競うトライアルに枝分かれしたのが発端です(当時はオフロードもオンロードもなかった。なぜなら、舗装路なんてなかったから)。ところが現在、世の中は細分化が進んでいて、ロードスポーツに乗る人はダート路面は見たことがないし、背の高いオフロードスポーツバイクに乗る人は、トライアルについてはほとんど知らない。これはさびしい。イエス・キリストは「汝の隣人を愛しなさい」と申したではないか。

0901トライアルク外の人

 そして今回、汝の隣人に向けて、トライアルマシンは用意するから、トライアルやりたいのになんとなく踏ん切りがつかなかった人、一度体験してみてから始めたい人、とりあえず一回トライアルマシンにさわってみたい人、集まってちょうだいと声をかけることができました。
 集まってくれたのは25人。自然山通信の(主にニシマキの)性格上、イベントとしては手落ちだらけで申し訳ないのですが、トライアルマシンにさわったことのある率5%という、まさにそんな人たちのためのトライアルクですとバンザイしたくなるような参加者のみなさんです。
 今回は、いろんな雑誌に告知を載せてもらいました。なのでオフロード雑誌のG誌を見てきてくれる人もいれば、トライアルの記事なんてめったに乗せないMr誌を見てきてくれる人もいました。
 ちょっと驚いちゃったのが問い合わせにお答えしているやり取りで「ガスガスってなんですか?」と聞かれちゃったことでした。我々の世界ではガスガスを知らなきゃもぐりですが、世間一般では、ガスガスは稀少品種。ガスガスを知らない人が世の中にはたくさんいるという認識が、世の中にトライアルを知ってもらうにはまず必要なのかもしれません。
 みんなのいでたちを見ても、トライアル屋とオートバイ屋には明らかな差があり。まず、1月のオートバイは寒いとお思いだから、みんな厚着です。ヘルメットは、顔が見えないものが多くて、ゴーグルも着用。トライアル屋は、顔の前になにかがあると、気になって走れない(人が多い)し、冬でもトライアルをやると暑いのを知っているから、冬支度も最小限。
 靴は、トライアル屋はトライアルブーツオンリー。トライアル以外のオートバイ屋は、ショートブーツだったりスニーカーだったり(できたらスニーカーじゃなくて、せめてショートブーツくらいがお勧めですが)、と思えばモトクロスブーツだったり。トライアルブーツを履いてごらん、それだけでうまくなったように感じるから、と自分の経験を語りたくなるところですが、ブーツの押し売りみたいに聞こえたらいやだなぁと、いろいろ考えは巡ってしまうのでありました。
 当日は、最初にトライアルマシンの説明と、トライアルについての解説をいたしました。といっても、複雑なトライアルの競技ルールを解説し始めたら、1日では終わらない。セクションのはじまりと終わり、足つきについてと5点となるいくつかの事例(エンストそれ自体は5点ではないという説明をしながら、トライアルのルールって、ほんとにむずかしいなぁと思います)と、ループをしてはいけないということくらいにしておきました。
 マシンについては、チェンジペダルが離れていることや、シートがなくて立って乗るようにできているから、乗るポジションをまちがえると置いていかれて危険が危ないこと、座りにくいけど、最初はすわって走ってもけっこうですとお話ししておきます。
 そのうえで、予備に持ってきていただいた2台のTXT280に登場願います。TXT280は、さすがにパワフルすぎて、初心者のみなさんに乗ってもらうには勇気がいります。しかしここであえて、初心者慣熟マシンとなっていただきました。それは、アクセルワイヤーをはずしちゃって、アイドリングを少しだけ高くして、アイドリング状態でマシンが走っていくことを学習してもらいました。

0901トライアルクお世話する

 高回転をキープしないと走り出せないスポーツバイクに乗っている人は、エンジン回転をあげてスタートしようという癖があります。絶壁に向かうフジガスじゃあるまいし、そんなことしたらロケットみたいに飛び出してしまうのだけど、トライアルマシンはじめての人たちなんだから、それもいたしかたなし。でも実際にアクセルを開けなくてもマシンがするする動いていくのを実感すると「これでも走るんだなぁ。低速トルクのお化けだなぁ」というトライアルマシンの姿を認識してもらえます。ついでに、ちょっと慎重なクラッチミートのお勉強にもなります。アクセルワイヤーはずすだけで、パワフルすぎる競技専用車も、入門マシンに早変わり。一度、お試しあれ。
 セクションは、今回はいつつ。タイトすぎるターンやフロントをリフトさせないと通過できないものは、もちろんありません。NBセクションを走れないふつうの素人ライダーが、右手だけで通過できるというのが目安です。右手だけだから、クラッチにはさわりません。クラッチに指をかけているというのは現代トライアルの基本だけど、クラッチを使わずに走れば、アクセルワークの基本を学べます。ここでは、クラシカルな“これがトライアルだ”で走ってみてもらいました。
 5つのセクションに置かれている5台のマシンは、いずれもアクセルストッパーつき。アクセルはほとんど開きません。これは初心者のみなさんに乗っていただくには必須アイテム。これじゃ乗れないとか、アクセルが開かなくてかえってあぶない、というご批判をいただくこともありますが(こういうご批判は、トライアルの上手な人から出ることが多いのだけど)今回スタッフやってくれたNBライダーは「はじめてストッパー付きマシンに乗ったけど、ついてるのに気がつかなかったくらい。ついてても、たいていのところは問題なく走れる」という評価でした。これもお試しあれ。アクセルストッパーは「伊藤家のフロントアップ道場」に付属していますが、簡単な構造だから、たぶんちょっと機械加工ができる人なら、誰でも作れます。上手な人でも、なんらかの発見があるかもしれません。
 さて、歩き始めました。
 セクションでは、参加者ははじめての(今度は少しだけど、アクセルが開きます。これだけでも、充分びっくりパワーは引き出せる)トライアルマシンをどう料理しようかに一生懸命。
 かたやスタッフの方は、なにかが起こったとき、それ以上のなにかが起きないようにするために、ずっと臨戦態勢です。アクセルワイヤーにとびついて引っこ抜くかクラッチを握るかブレーキを踏むか、あるいは人間に飛びついて引きずりおろすか……。幸い、こういう事態は起こらず、スタッフが気持ちの準備をしただけですみました。
 クラッチレバーに飛びかかる部隊は、屈強なベテラン勢で、参加者と一緒にとことこと歩く部隊は、トライアルがいかに楽しいか(ときにいかに苦しいか)をおしゃべりしながらるんるんするのがお仕事。トライアルという団体旅行のツアーコンダクターみたいなもんです。
 亜路欧さんは、このイベントをやったから来月ガスガスの注文が増えるだろうとは考えていなくて(実際、もしもトライアルマシンを買うことになっても、最初は中古を買うかもしれないし、別のメーカーのを買っちゃうかもしれないし)、それはそれでよろしいのではないかという寛大な方針です。でも5セクション2ラップのトライアル初体験ツアーの終了後「うちのクルマにトライアルマシンが入るかどうか、乗せてみてもいいですか?」というリクエストが出るあたり、トライアルクからトライアルの広がりを(ちょっと)期待しても、いいんじゃないかな?
 このイベント、近々またやりたいし、できたら全国的にあちこちでやりたいというのが、亜路欧さんと自然山通信の、希望です。
(実は当日は、相模川の一斉清掃の日でした。トライアルクの日程を決めたのが先だったので、トライアルク要員は一斉清掃は失礼しちゃった。ごめんなさい。トライアルマシンに触れるだけで精一杯だろうから、河川敷のお掃除の話はあえてトライアルクの参加者にはしなかったのだけど、お掃除に参加してもらわないまでも、話だけはしておいた方がよかったなと、反省しました)