雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

脱走

逃げるすみれ1007
走るウサギ

うさぎが脱走した。といっても逃亡の意図があったかどうかはわからない。もとはといえば、ワタシが悪うございます。放し飼いにしてたんだから。

うちのぐうたら飼いうさぎ、憶病者で、ドアが開いていても外に出ないし、第一、足を踏み入れたことがない隣の部屋へ行くのにもおっかなびっくりだ。最初は、外へ連れていくときには鎖でつないでいたのだけど、飛び跳ねて走り回るのに鎖がじゃまっけそうだったし、へんなしばりはなくのびのび遊んだほうが楽しいだろうと思って(ぼくがそうだから)、最初はくさりをしたまんま手を放してみた。そのうち、ぜんぜん大丈夫なので、くさりもはずして放牧するようになった。放牧したって、目の鼻の先で穴を掘っているか、手や鼻が汚れたといって延々とお掃除をしているか、掘った穴にオナカをくっつけて寝てしまうか(冷たくて気持ちがいいらしい)、ごくときどき思い出したようにそのへんを走り回るくらいで、まるでダイナミズムに欠ける。

そんなぐうたらな放牧生活をしていたのだ。うちのうさぎは。ところが

まったく、ほんのちょっと目を離したすきだった。

建物の向こう側に消えていくお尻は、確かに目撃した。とことこと、お散歩している感じだった。実はお隣には犬がいる。その犬、今はもうすっかり退職して、退職してから三代四代たっているから、能力はないと思うんだけど、実は猟犬である。そっちへいったら食われちゃうかもしれないよと忠告しにいったら、いない。

前例からして、そのへんで寝てるにちがいないと思ったのだけど、いない。薮の中や、日ごろお散歩しているところを探してみたけど、いない。なまじ、最後に物陰に消えるお尻を見ているだけに、そこを曲がればひょこたんと座っているような気がする。でもいない。

近親者を拉致にあった人というのは、こういう気持ちなのかなぁと、たいへん不謹慎ながら思った。この場合、悪いのは北朝鮮ではなくて、うさぎを放し飼いにしたぼくと、自分の家の場所もわかっていないくせに人の管理下から離れてでかけてしまったうさぎであって、たいへんに自業自得なのだけど。そのへんには、うさぎが掘った穴がいくつも開いている。それを見るのもつらい感じになった。

夜になった。もう犬に食われちゃったかなぁ、どこかの落とし穴にでもはまって動けなくなっているのかなぁ、それとも、いきなり先祖返りをして野山を走り回って、すっかり野生化しているのかなぁなどと夢を見ながら、うさぎの家を外に出して、帰ってきたらとりあえずそこで寝られるようにしてやった。家の戸を開けておいてやってもいいけど、やつがでかけるときには人間に羽交い締めにされて連れ出され、帰ってくるときも人間の腕の中にいる。自分自身で家の出入りしたことなんか、一度もない、なさけないうさぎなのだ。

朝5時。外のうさぎ小屋(ただのケージ)を見る。帰ってない。もうこりゃ、縁がないものとあきらめるかな、うさぎがいなけりゃ、コンピュータのケーブルをかみ切られることもないなと、泣きながら納得してナスの収穫にでかけてみた。きのうは半日うさぎの捜索をしていたから、ナスもキュウリもでかくなっていた。

そんで帰ってきたら、あれ、玄関先にいるではないか、うさぎ。おやー、帰ってきた、帰ってきた。

ところが一晩ワイルドライフを送ったうさぎは、いきなり機敏な動きをするようになっていて、そうそうつかまらない。なだめたりすかしたり、水をあげたりエサをあげたり、おっかけっこをしてみたり待ちかまえてみたり、薮の中に入ったのをそっと見守ってあげたり。

悪戦苦闘2時間。やつは、やっと家の中に帰ってきた。うー、よかった。

飼い主は、これでまたケーブルをかじられなきゃいけないなぁと覚悟を決め、当の本人は、ほぼ一日ぶりに屋根の下に戻ってきて、なんだか放心している。

そういえば小学校や中学校の頃、長旅をして帰ってくると、2日3日、自分の家が自分の家じゃないような感じだったのを思い出した。やつも、そんな感じを味わっているのかな?

写真は、逃亡する直前の、もしかしたら最後の1枚になったかもしれなかったやつ。放牧は楽しそうだけど、野生の味も覚えてしまうんだね。気をつけよう。うさぎにとって、どっちが幸せなのかはよくわかんないけど。