雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

ありがたき、お水

2011年どんと1

 日曜日、どんと祭があった。今年で4回目。もともとはこういうお祭りをやる習慣もなかったらしいけど、お正月にお世話になったしめ縄など、神様がやどっているといわれるものをゴミ箱にポイするのも忍びないってんで、お正月の一夜、火を焚くことになったのだった。
 夕方から始まるんだけど、日のあるうちにでかけたら、もういつでも火がつけられるように松が積んであって、裏では肉が焼かれ、当然酒があった。お神酒だから、いただきますなのだ。


 夕方暗くなる頃、しめ縄や門松とか持って、集落のみなさんが三々五々、やってきなさる。小さな集落だけど、年がら年中出会っているわけでもなく、というより、なかなか会わない人のほうが多い。もう今年も半月終わったけど、ここで初めて「あけましておめでとう」の人もいる。
 持ってきて、火の中にくべて、それでさよならは許されない。お祓いして、火がつくまではいなきゃいけない。わかりやすくいうと、酒飲んでいかなきゃいけないんですね。お神酒だから。川内村の中でも、このへんの人は酒を飲むと評判。昔は酒を飲むたんびにけんかが始まったらしいけど、今はさすがにそんなことはございません。こわいもの見たさで、ケンカのシーンもちょっと見てみたい気がするけど、やっぱりおっかないな。

2011年どんと2

 松に火をつけると、パチパチと元気よく燃えていく。「燃えりゃいいってもんじゃないんだ」ということらしい。お祭りだから、少々の演出も大事だ。
 よそから来た人ともとからいるひと、いっしょに酒を飲む機会も、実はそんなに多くない。地の人には、さぁさぁいらっしゃい、ごゆっくりどうぞというサービス精神はなくて、どっちかというと、さぁ飲め、酔っぱらわなきゃ、仲間じゃないぞ、がっはっは、という感じ。上等じゃねーかと乗り込んでこれる強靭な精神を持つ移住者も、そんなに多くないんでしょうね。いっしょに酔っぱらえば楽しいんだけど、それなりに体力必要だし。
 そうして、最終的には酔っぱらってしまうのだけど、酔っぱらう前に、水の話になった。移住者が家を建てるにあたって、井戸は何メートル掘ったとか、そういう情報交換。この村は、全戸が地下水で生活している。上水道がない。みんな、天然水を飲んでいる。そして、お隣同士だって、水系がちがえばちがう水を飲んでいることになる。
 たいていの人は、数十メートルの井戸を掘って、飲み水にしている。井戸水はあったかい。冬でも夏でも水温15度くらい。今の季節、室内が10度を超えれば温かいと思える気候だから、15度の水がいかに温かいかがわかる。
 対して、数はそんなに多くないけど、沢の水を引いてきている人もいる。実はぼくもそうだ。ぼくが引いたんじゃなくて、大家さんのHさんが引いた水のおこぼれをいただいている。井戸の水は夏冷たくて冬温かい。というか、1年中いっしょだ。沢の水は、季節なりに温かくなったり冷たくなったりする。今の季節は、とても冷たい。
 沢水がいいのは、建設コストとランニングコストが安いことだ。井戸を掘らなくていいし、ポンプを回すこともない。ときどき砂がはいったりということもあるみたいだけど、いまのところ、そういう目にはあってない。停電でも水は止まらない。井戸水は、停電だと出なくなる。
 井戸水も沢水も、どちらも地下天然水。だいたいこの村の水を飲んでれば、どこの水だろうとまちがいない。どこの水もうまい。うまいけど、やっぱり我が水は特別らしくて、水の話になると「おれんちの水はうまいぞ」という話になる。井戸の深さも自慢のタネだ。うちの井戸は百メートル掘った、という話も出てくるけど、いまさら確かめるわけにもいかない。ほんとに百メートルか、うそでねー、というやりとりをしていくうちに、酔いが回ってくるというしくみである。
 この夏、村を訪れた若者たちは、みんなペットボトル飲料を持参していた。ここの水が以下においしいかしらないからしょうがないのだけど、それだけじゃなくて、蛇口から出てくる水は飲むものではなく、ペットボトルの水が飲み水だという刷り込みができているみたいにも思える。蛇口をひねればおいしい水が飲めるよといってもあんまり飲んでもらえず、せめてそのおんなじ水をジャグにでも入れると、だいぶ飲んでもらえるようになる。蛇口は、すっかりきらわれてしまっているみたいだ。
 今年、2011年の11月に、川内村では「地下水サミット」が開かれるそうだ。なんでも、すべての飲料水を地下水に依存している自治体は、全国でも数少ないのだそうで。人口が増えて水不足になることもなく、山のてっぺんだからダムを造ったってたいしたメリットがあるわけでもなく、よっぽどの天変地異か政治的なアクションがなければ、この村はきっと地下水と共に生き続けていくだろうから、地下水サミットの会場としては、いかにも適任。
 この村といわず、東京で育ったぼくだって、小さい頃は蛇口の水や井戸水を飲んで暮らしていた。自然のままの水がおいしいって、いかに素晴らしいことか。ここにはいろんなおいしいものがあるけど、お水を味わいに来ていただいたって、悪くないことよ。