雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

保険のこと

2011山あいの神社

困ったときの神頼み、もしくは転ばぬ先の杖。さて?

 自然山通信では、いろんなイベントの告知を掲載しています。世界選手権から、ごくごく小さな身内大会まで、いろんなのがあります。それぞれ、どんな雰囲気の大会なのかなぁと想像すると、日時、会場、参加費と連絡先が並んでいるだけの告知記事を読んでいても、ちょっとうきうきしてきます。
 本日は、そんな大会について、思うこと、気になることなど。


 トライアル大会に参加しようという人は、すでにトライアルをやっていて、大会に出るために、そこそこ練習を積んでいて、トライアルのなんたるかについても、それなりにご存知の方であるかと思います。それが、ふつうだし、それが安全だし、発展的だと思います。
 でも最近は、トライアルと出会うチャンスがうんと少ない。これにはいろんな理由があるんだけど、世の中がすべて簡単な方向に向かっていて、その中でトライアルだけは昔からのスタイルを崩していない。だから相対的に、トライアルはどんどんむずかしくなっていくんじゃないかと思うわけです。
 で、最近は、トライアル大会に参加して初めてトライアルを知る、という人もいる。そういう時代なんですね。
 初めてトライアルに触れるのに、その最初がどこかの草大会でしたという場合は、どんなセクションやコースが用意されるのかで、トライアルの第一印象が決まります。エンデューロとかも、険しいのや過酷なのはあるけど、トライアルの場合、自分の力量を越えたレベルだと、手も足も出なくてあぶないばっかりでおっかない。自分のレベルにあった大会を選びましょう、と、言うは易し、これがなかなかむずかしい。ビギナー向け、なんてうたっていても、どんなビギナーを対象にしているかは、主催者のモノサシ次第だから。
 それともうひとつ、あんまり大きな問題と見てくれない人は多いけど、実は大問題じゃないかと思うのが、保険だ。
 自然山通信に届けられる大会には、保険がかかっているものとかかっていないものがある。では、保険とはなんなのか。
 トライアルは、わりと安全なモータースポーツだということになっている。でも、細かいケガまで含めると、けっしてケガの少ないスポーツではない。まず、圧倒的に転倒が多い。舗装のサーキットでは転倒は事件だけど、トライアルの転倒はあんまり事件じゃない。トライアルでは、転んだからといってケガをするわけじゃないけど、ケガをするチャンスはいっぱいあるわけだ。転ばなくても、足をついたり木にぶつかったりで、ケガはできる。坂道を上ったり岩に登ったとたん、レバーにかけていた指が曲がらないところまで曲げられて、痛い思いをすることもある。
 いや、あんまり脅かすつもりはないんだ。でも、危険がないスポーツでもないってことだ。もし不幸にして病院に行くようなことになったら、そのときは医療費などを(少し)ご負担しましょうという制度だ。わざわざ説明しなくてもみんなご存知ですよね。
 今、MFJの公認大会とか承認大会では、参加者一人に(トライアルの場合)、500円ずつのお見舞い金制度の共済掛け金を、MFJにおさめています。500円で補償される分というのは推して知るべしですが、通院入院費などが必要になる負傷者にすれば、少しでもありがたい存在なのが、この制度です。
 ところがこの制度、お国の分類的には無認可共済という枠にはいるのだそうで、そのまま存続ができないらしい。それでこの4月からは、ライセンス保持者が個々に保険にはいるシステムになった。ライセンス代が値上げになったと憤慨している人は多いと思うけど、値上げじゃなくて、保険料が上乗せになったんで、金額的にはそんなに大々的な値上げじゃない。金額的には、だけど。
 日本では、大会が保険に加入しているというのは、ライダーへのサービスだと認識されているフシがある。保険にはいっている安心な大会ですよ、大船に乗った気持ちで参加してください、という感じ。でもそうだろうか? SSDTでは、日本でもどこでもいいから、しかるべき保険に加入していないと、エントリーが認められない。ライダーへのサービスだったら「ぼくは保険は入らないから、保険に加入しないままエントリーを受け付けてくれないかな」という主張もあっていいと思うけど、当然、こんな主張は通らない。
 ねんざとか脱臼とか、ちょっとした骨折くらいだったら、保険はライダーの救済として機能するのかもしれない。「ケガしちゃいました」「それはお気の毒でしたねー。所定の申請をしてもらえば、保険が出ますので、診断書といっしょに提出してくださいね。ケガをなおして、次はケガしないで走りきれるようになってくださいね」「どうもお世話さまでした」なんて会話があって、参加者と主催者の間は和やかに結末することが多い。
 でもこれ、保険があったから和やかなんじゃなくて、お互いの信頼関係なんじゃないですかね。保険がない大会でも、おんなじような光景を目にすることがある。「ケガしちゃいました」「なにー、あんな簡単なところでケガしたのか、修業がたらんなぁ」「そうなんです。もうしわけない」「ケガしてて、クルマ運転できるか、運転手調達してやろうか」「大丈夫です、心配してもらって、ありがとうございます。しっかり修業してきます」なんてね。
 個人的には、トライアル大会だけじゃなくて、あらゆることが、ケガと弁当は自分持ち、自己責任であるべきだと思ってる。でもこのへんのことを語り始めるとめんどくさくて、自己責任をとれない人が失敗しちゃった人のことを自己責任が足りないと責める風潮が強いこの頃、とりあえず現状は現状として受け止めなきゃいけないだろうとは思う。
 ケガと弁当は自分持ち、なんていってお金を集めているイベントは、世の中にどれだけあるだろうか。しかも、ことはモータースポーツ。重大事故を含め、リスクは小さいとはいえない。こういう大会を主催しておいて、保険にはいらないというのは、主催者の責任が問われたりしないんだろうかと、そういうつまんない心配が、今日のテーマです。
 ケガしても、口がきけて自分で家に帰れるうちは、主催者と参加者の関係次第でことはおさまる。でも口がきけないようになったら(どういう状況かはいろいろあるけど)、主催者がお話しなきゃいけない相手はご家族になる。ご家族は、その参加者のモータースポーツへの参加を賛成していたか、認めていたか。もしかしたら、そのお父さんは、家族に反対されるでこっそり家を抜け出してきたかもしれない。
 こういう家族を相手に、保険にはいってなかったから、医療費は全部そっちで出してくださいねという話をしなきゃいけない主催者は、そうとうつらいと思う。トライアルでは、そんなに大きなケガをすることはほとんどないかもしれないけど、絶対ないというわけじゃない。現実に、誰でも参加できるツーリングトライアルで死亡事故が発生したこともある。どちらも、大会では保険にははいっていなかった。主催者の疲弊は本当にお気の毒だった。今、その大会はどちらも開催されていない。
 保険は、参加者のためのものでもあるけど、究極的には、主催者保護のためにある。逆に言えば、保険にはいらなければ、おっかなくてやっていられない。保険にもはいらず大会を主催している人は、よっぽど勇気と財力のある人なんだと思う。ぼくらを含めて、たいていの主催者にはそんな蛮勇と財力はないから、いまある制度を利用して、保険をかけさせていただいているのだ(と思う)。重大事故が発生したとき、そのすべてを補償できる主催者なんて、まずどこにもいない。保険にかけていたからといって、そうそう補償しきれるものではない。だけど、やれることはやりました、といえるのと、保険もかけてないし、事故が起きるなんてこれっぽっちも考えてなかったけど、事故に遭われた方にはお気の毒だと思ってます、というのとでは、事故にあった人やその家族の心証はずいぶんちがう。ましてや裁判になったらどうなるか、保険にはいらずに大会主催していられる人には、もうちょっと考えてほしいなと思うのだ。
 10年ちょっと前までは、民間の保険会社も、モータースポーツの保険をけっこう受け付けてくれていた。ところが、規制緩和なんてうそっぱち、日本の規制はどんどんきつくなっていって、今、モータースポーツの保険を受け付けてくれる保険会社はほとんどない。現実的に、ふつうの主催者が保険を使おうと思ったら、MFJの公認か承認をとるしかないのが現実だ。
 実はもう一つ、ホンダのモーターレクリエーション見舞制度というのがあって、ホンダの販売店が主催する場合は、格安の制度(保険ではないけど、保険のようなもの)を使うことができる。MFJの制度改革は、保険制度が厳しくなったからのことだという。ホンダのほうが変わらず使えているのも不思議だけど、勘ぐるには、MFJは文科省所轄の財団法人だから、法律にはよそに先がけて従順でなければいけないんでないかと思ったりしている。いずれにしても、ホンダの販売店でない主催者のみなさんは、今のところMFJの承認をとりつけるのが、数少ない保険加入の方策ってことになる。
 MFJの承認大会になるには、公認主催者になってなきゃいけないとか承認料1万円が必要だったりとか、いろいろめんどくさい。そのうえ、参加者ひとりあたり500円の共済掛け金を納付しなきゃいけなかった。なので参加費に、ひとりにつき500円以上の費用負担がかかってきた。でも2011年4月以降、保険はライダーが個別にライセンスといっしょに加入することになったので、主催者側の負担は承認料の1万円がメインということになる。個別の500円は不要になるから、保険料を参加費に上乗せしなくてもよくなる(たとえば、全日本選手権のエントリーは、500円安くなった。ところがなぜか、地方選手権は据え置き。地方選手権は財政的に苦しかったのだろうけど、この機に乗ずればこっそり値上げできるんじゃないかという気配が濃厚で、なんだかなぁと思う。四国以外の地方選手権は、そろって便乗値上げをしたことになる)。エンジョイ会員証5100円(保険込み)を1年に1回ライダーに負担してもらえば、主催者としてもそんなに(承認料の1万円は正直でかいけど)費用負担をしないで保険加入が可能だ。
 MFJには「無保険の大会を放置して、そこで重大事故が発生したら、トライアルやモータースポーツ全体が矢面に立たされるのだから、MFJの職員があちこちの草大会の主催者のところに出向いていって、お願いだから保険にはいってくださいと頭を下げてくれませんか」とお願いしてみたのだけど、MFJというところは、そういう能動的なことをするところではないらしい。大事な問題だと思うのだけどね。
 だからせめて、参加者のみなさんにお願いしたい。参加費は安ければ安いほどいいけれど、必要なものを削っちゃいけない。大会には保険が絶対必要です。そのための費用負担は、どうか笑顔であきらめてください。重大事故はそんなに起きるものじゃないと思うけど、重大事故が何度起きても、トライアル界がひとつも学習せずに、あいかわらず保険について無徳着だというのは、とっても心配な今日この頃なのでした。
 気持ちは、あくまでもケガと弁当は自分持ち、難だけど、今のせちがらい世の中、それではきっと許してもらえない。