雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

お米の検査

アイソトープ手帳

先生のアンチョコ。買おうと思ったら2,500円もした

 年が明けて、ぼちぼちお願いしておいたお米の検査の結果が出てきた。まだすべての検証がすんでいないので、となかなかはっきりした結論は出してくれない。このあたり「なんか隠してんじゃないか」「対応が遅い」と、ふだんお国や行政の対応にいらいらするのとおんなじ理由かもしれないので、ちょっと興味深いところではあった。
 それでもせっかちな人はいると思うので、ぼくが勝手に結論からいえば、精米せず、籾の状態で計測した結果は、セシウムは検出されたがごく微量だったということだった。現在の500ベクレル/kgは楽々パスするのはもちろん、検査基準を厳しくして100ベクレル/kgで考えてみても、まだまだ大丈夫だろうという程度ということだ。


 結果は出てますか? セシウムは出てますか?
 というぼくのメールに「出てます」というお返事が来たので、最初はびびりました。原発からたった25kmの地点にいるのだから、セシウムが出るのも当然なのだけど、それでも「出てます」とはっきりいわれるとちょっとつらい。なんというか「おれはガンで死ぬんだ」とタバコすぱすぱ、酒もがんがん飲んでいた人が、いざ検診で精密検査を、となると急にびくびくしちゃって、検査の結果が出ていきなりしゅーんと元気を失っちゃうような、そんな感じだった。ただし「出てます」というのは、この場合、結果が出てるという意味だったのだけどね。
「結果は出ているけど、まだ検証がすんでいないので、数字その他もろもろをお知らせするのはもうちょっと待ってほしい」
 というお返事だった。
 ぼくなんかだと、体調不良を自覚しても検査に行くのを明日明日とじりじり伸ばしてしまうくせに、いざ検査をすると「結果はいつ出るんだ?」ときぜわしくなる。病院の話ばっかりじゃなくて、締め切りだったそうだ。締め切りを次から次へとぶっ飛ばして原稿を持ってきた人が「本はまだできないのか」といらいらしたりする。そういうもんなんでしょうね。
 その裏には、自分の仕事はどれだけたいへんなのかを自分がよく知っているけど、人の仕事は見たことがないから、意外に簡単にやってんじゃないのー? なんて思っているからじゃないですかね。仕事を渡したら、次の瞬間に仕事が返ってくるもんだと思ってたりする。
 ぼくら、放射能測定といえば、ピッと測ればピーッと結果がでるようなのを想像している。さすがに、ガイガーカウンターで遊んでいると、計測には時間がかかるもんだと理解できるようになるけど、こういうのは数字を読めばそれで決着がつく。でもそれって、数字を読めばそこそこの数字が出るように、作る方がお膳立てした結果なんですね。
 お米の計測は、それ自体は30分とか1時間で終わってしまうんですが、そこから吐き出されたデータとにらめっこする作業が控えているらしい。表計算ソフトで吐き出されたデータは、それ自体はまるで無機質お数字の羅列で、なにを意味しているのかもさっぱりわからない。
 もらったグラフには、セシウムだのなんだの、いろんな元素が検出されたことを示すデータが並んでいる。この中から、問題となるセシウムとかを拾い出して、その線量を特定していく。計測ってのは、考古学者が遺跡を発掘するみたいに、これは石ころだし、これは長靴だし、おー、これがマンモスの牙だ! みたいに地道てこつこつとした作業が必要になるんですね。知らなかった。X線カメラを買えば病気が発見できるものではない、というのと同じかもしれない。
 だもんだから、たぶん放射線の専門家は、素人が線量計をふりかざして得意げに計っているのがおもしろくないんじゃないかと思う。素人が測ってなにがわかるんだ、という思いもあるし、いいかげんな数字が世の中に出てそれであらぬうわさが立つのは具合悪いな、という思いもあるのだと思う。
 うちの先生も、この点はある程度同感みたいだった。でもこんなことは原子力を勉強しなくたって誰にだってわかることなんじゃないかと思う。正確な情報だけきちんと伝えればいいんで、ねつ造や誇張やよくわかんないことまで伝えるのは、それがお国であろうと民間であろうと大学であろうと、ややこしいからやめていただきたいっすね。
 だからうちの先生いわくは、目に見えない放射線なんだから、みんな線量計は持つべきだと。でも機械を持てばそれでいいってことじゃなくて、ちゃんと使い方を広めていかなきゃいけないんだと。オートバイの世界の端っこに住みつくものとしては、少し頭も痛い。
 ついでだから、最近救世主のようにあがめたてられている小出せんせーについてのうちの先生のご意見。小出先生の言ってることはごくごく正しいと。だけどあの先生は長年原発危険の意見がまったく聞いてもらえず、歯がゆい思いをしていた関係か、どうしても話を大きく見せて原発の危険性を訴えるような方向性に向いている。小出せんせーを信じる人が増えてきた今となっては、もう少しニュートラルになってもいいと思うんだけど、長年のくせはなおらないのかなぁということでした。
 前回書いたけど、一部の人たちには悪魔みたいに言われている山下せんせーについても、うちの先生は「まちがっていない」とおっしゃった。もしかすると学者というのは、そうそうまちがったことを言うものではなくて(まちがいだらけの学者なんてなんの役にも立たないものね)、そのものの言い方でいいせんせーになったり悪いせんせーになっちゃったりするみたいですね。話聞くほうは専門家でもないし勉強なんかしてないのだから、そうであってもしょうがない。
 ぼく個人的には、小出せんせーのいうことはもっともだと思うし、リスクについても可能性を語ってるだけなんでそうそうびっくりしないけど、状況が変わっていない限り同じことしか聞けない感じになってきたので、あんまり注目しなくなった。でもまだ一度も小出せんせー(京大助教の小出裕章氏)の話を見聞きしたことがない人は、ぜひ一度チェックしてみてください。
 ついでにいうと、名古屋大学教授の武田邦彦氏については、たまたまこの学校で教鞭をとってる友人がいるんだけど、まちがったことは言ってないけど広告パンダ、という評価をしておられました。大学のせんせーがうそはつかないというのは、ここでも共通する認識だった。ぼくもあのせんせーのいうことは、立川談志亡きあとの(ごめんなさい。談志師匠にたいへん失礼だった)ブラックな漫談のような気がしています。

野生米のもみすり

一升瓶に入れて棒でつつくという方法もあったけど、こんなふうにしてみた。すごい重労働だった籾すりの巻

 すいません。おコメの話だった。グラフにはいくつかの山があって、そのどれがセシウムで、どれが鉛、どれがラジウムとメモがしてあった。メモはぼくのためにしてくれたもので、研究者はグラフをじっとにらんでいるうちに、ただの数字がセシウムやラジウムに見えてくるにちがいない。
 で、研究室にも微量ながらも放射性物質はあるから、計測したデータからバックグラウンドと呼ばれるもともと研究室にあった放射線量を引き算する。引き算といっても、沸騰した100℃のお湯が室温20℃の部屋に置いてあるから、このお湯は実は80℃です、なんて計算をしたらダメだ。やっぱりここは経験と知識に基づいて引き算していく。ぼくにやらせたら、もー、めんどくさいからこのへんの数字でいいってことにしよう! なんてことになりそうな作業だ。
 そんなわけで、きちんと数字をお伝えするのは、もうちょっと待ってちょうだいところでこれを書いてるんだけど、正確なのは歓迎だけど、ホームセンターで7,000円で測ってくれるのは1週間で答えがばっちりでてくるわけで、素人的には、すっきり数字が出てくるほうがさっさと安心してしまいますね、やっぱり。
 グラフを見たり、話を聞いたりすると、どうやらおコメのセシウムは、30ベクレル前後ではないかということだった。おコメは2ヶ所から収穫している。ちょっとだけ標高が高くて線量が高いところが35くらいで、もう少し低いところが25くらいだった。籾の状態でこれだから、これを玄米にして、さらに白米にして、それでも心配なら大吟醸にして日本酒にしてしまえば、セシウムのセの字も残らないんではないかと思われる。
 だけども。ここに籾の状態でセシウム0ベクレル(検出限界以下)のコメと30ベクレルのコメがある。精米していったら、両方0ベクレルになった。だったらどっちもおんなじかというと、おんなじでしょうか? うちの先生いわくは、おんなじだと思うしかないということだけど、ちょっとでももとにあったものは、おっかないやと思う人もいるんではないかなぁ。
 先生もやっぱりおっしゃる。「小さい子どもには食べさせないほうがいいかもしれませんね」と。でもこうもおっしゃる。「ぼくは食べます。ニシマキさんも、もういい年だから、がしがし食べちゃって大丈夫です」。まぁ食べられるかどうかは、それ以前にまだ今年の作付けができるかどうか決まってなくて、もしかすると、2年続けて作付け禁止なんてことになるかもしれないんだけどね。

野生米のデータ

見てもよくわかんない検出データ。右の方に鉛筆でメモしてくれているのが、素人向け

 まぁ今年は、できれば作付けできるようになって、自分たちで作ったお米をきちんと測って、納得した上で低い数値のコメを食べたいもんだなぁと思ったわけでありますが、ここで気がついてしまった。
 線量を下げるには、土壌を除染したりするのも効果があるかもしれないけど、線量の高い米と線量の低い米を混ぜてしまうのが一番だって。500ベクレル(もうすぐ100ベクレル以下になる)以上の汚染米を出荷するのは罰せられるのだろうけど、499なら出荷できる。ブレンド米というのはちゃんと存在するから、ブレンドするのに罪はないはず。499ベクレルの米は、それを買った人が検査に出したりするとばっちり出てしまうから、念のため0ベクレルと半分ずつにすれば250ベクレル。1/4混ぜれば125。どんどん下がっていく。もしかして、巷で売られている米は、こんなことをしているんじゃないかなぁ、なんて妄想してしまったわけであります。いえ妄想ですから、ご心配なきようにね。