大きな災害が相次いでいます。災害支援にトライアルは最適。しっかり腕を磨きましょう。

2025新ルールのいろいろについて

2025年シーズンももう終わろうとしている(地方選手権ではシーズンを終了したところも多い)けど、このシーズンはルール的に、いろいろおもしろかった。おもしろかった、というのは、楽しかったと同意ではなくて、興味深いというか、つっこみ処が多いというか、教訓になるところが多いというか、いろんな思いがからみあっているということみたいな気がする。

競技はどんなものでも、常にルールで規制されている。ルールがどんなふうに改正されても、うまい(強い)ライダーは好成績をあげてくるのがこれまでの経験則で、そこから考えると、ルールが試合結果を致命的に左右することはまずないと思われる。

ではルールはなんでもいいのか。極端にいえばなんでもいいと思う。過去、世界のいろんなトライアル大会のルールをおさらいすると、ありとあらゆるルールが採用されている。こんなんでいいのか、というほぼデタラメなルールで世界選手権が開催されたこともある。でも理想的には、トライアルの魅力が最大限に発揮されて、スリリングな競争が見られて、判定がわかりやすくライダーにもオブザーバーにもお客さんにも疑問や迷いが生じないルールがいいのだと思う。そしてそれが、永遠のテーマになるんじゃないかとも思う。


●思うことその1
ルールは確たるものであってほしい

2025年の規則書は、2024年の12月に発行された。現在MFJは印刷された規則書を発行していなくて、規則書はPDFをダウンロードすることで入手する。PDFだけど、基本的には、12月に発行されたところから、改訂はされない。デジタル成果物の修正はいとも簡単なはずだけど、一度発行されたものの修正はしないらしい。不可解きわまりないけど、そういうことになっている。

ルールは、ころころ変えるべきものではないと思う。オブザーバーもライダーも、ルールを読んで熟知してこいと言われているのだから、その根底が変わってはどうしようもない。

ところが2025年は、実はルールが出たと思ったらこっそりちいさな修正が行われてた。あぁ、今年は細かい修正もするようになったのかなと思ったら、その後の修正はブルテンと呼ばれる別文書でのみおこわれた。規則書を読んだけではルールを知ったことにはならず、ブルテンも読み通す必要がある。

そうこうしてるうちにシーズンイン直前に(すでにシーズンが始まっていた選手権もあった)バックOK、ループOK、(足つき停止時の)エンスト不問、他クラスゲートへの進入不可とのルール改正が(ブルテンにより)発表された。今まで右を向いて進めといわれていたのが、左へ行けくらいの大変化なんだけど、それが1枚のブルテンで流れて決まった。

それぞれ理由はあるんだけど、こんな大きな変更が、ルールブックが公開されてから変わるもんだろうか。しかもその後、条項を変更したことによって整合性がとれなくなった部分があって、その部分はまたブルテンが発行されるなどして修正されることになった。手ぬぐいを作ったのに途中で雑巾に作り替えてしまったのであちこちほころびて、ついにボロ雑巾になってしまったくらいの顛末だ。

シーズンが終わると、トライアル委員会は2026年ルールの作成にとりかえるのだろうけど、ルールブックは少なくとも大筋を決めきってから発行してほしい。そして修正は、別に文書をチェックする必要があるブルテンではなく、本体そのものを修正してほしい。MFJがやるとそこに費用がかかるのかもしれないけど、自然山通信的見積りだと、その費用は大きく見積もって1万円くらいの人件費のみだ。

●思うことその2
トライアルの信条とはなんだろう

ルールはなんでもいいと書いたけど、これは方便で、なんでもいいとは思っていない。ただし、世界選手権にふさわしいルール、Xトライアル用ルール、草大会ルールと、多少バリエーションがあってもいいと思う。ただその大きなよりどころとなるルールは、根底に流れるトライアルのトライアルらしさを具現化するものであってほしい。となると、ぼくらが愛するトライアルとはいったんなんなんだ? という話になる。

ちょっとデタラメな歴史考察をすると、トライアルはイギリスで生まれた。そして今覇権はスペインに移っている。両者の中間をとるつもりなのか、ルールの言語はフランス語で書かれていたものが正式となっている。

イギリス人は、人はすべからく紳士であれ、という信条があるから、練習禁止、やり直し禁止、一度走ったら戻れない、なんてルールがトライアルには根付いている。ノーストップルールも、推進したのはフランス人委員長だけど、もともとはイギリス界隈から生まれたものだと理解している。

イギリス式が、すべて正しいとは思わないけど、だいたいの正解はここにあるんじゃないかと思う。簡単にいうと、上品に、かっこよくあれ、ということだと思う。そんなふうに教育されていると、バック禁止もループ禁止も、じゅうぶん納得できてしまう。

ただし、もてるテクニックを殺すのは、ルールとして健全ではない。バック禁止やノーストップルールに批判が出るのは、テクニックの進化に水を差すからだと思われる。今の世界選手権は、その点でうまい感じのルールなんだと思う。

ただしただし、エンスト+足つき+停止が5点にならなくなったのは、かっこ悪い様を救済していて、あんまり歓迎できない。電動マシンとエンジンマシンとの不公平感を払拭するためのルール改正というけれど、2ストロークと4ストロークにもそれぞれ長所短所はあるから、機種によるちがいはそのまんま受け入れていいんだと思う。それがくやしかったら、電動マシンに乗ればいいのだ。せめて、エンジン再始動は(足つき+停止の場合)3秒以内とする、くらいのルールがいいなぁ。自信がない人は、電動マシンに乗らなくても、セル付にすればいいのだ。

それでもやっぱり理解できないのは、ループ・クロスが不問になったことだ。このルール変更は規則書が公開された後に行なわれたという点でなんだかなぁ、なんだけど、イギリス的かっこいいトライアルであれ、という点でも理解しがたい。バックOKにしたら必然的にループ・クロスもOKにせざるをえない、というのが日本の解釈だけど、なんの世界選手権ではバックOKだけどループはできない。日本人がよっぽど正義感が強いか、頭が固いか、なにかまちがっているのか、だと思う。

もうひとつ、オブザーバーの負担を減らす、という大義名分もあった。ループ・クロスの再転をするには、わだちがわだちを踏んだかどうかを判断するのだけど、わだちははっきり地面に残らないことが多い。判定するのはとてもむずかしい。むずかしいからやめちゃえ、というのはある意味正しいのかもしれないけど、証拠調べはたいへんだから犯罪はスルーすることにした、みたいな気がしないでもない。

2025年、ループをOKにしたトライアルは、ラインの幅が広がって、セクション作りも意表をつくものができて、それはそれでおもしろかった。今までとはちがうセクションが作れるし、今までとはちがうセクション攻略法が組み立てられる。だけどやっぱり、これはぼくたちが長年慣れ親しんできた、トライアルとは別物ではないかなー。老婆心としては、こんなトライアルをやっていたら、世界の中で技術的にどんどん後れを取っていくんじゃないかと心配してしまう。


もうひとつ、今年から他のクラスのゲートに入ったらダメ、というルールができた。世界選手権では、たくさんのクラスが一つのセクションを走るようになった最初の頃から(そのもっと前、世界選手権にはクラスは一つしかなかった)走れるラインは自分のゲートの中だけとなっていたのだけど、日本では自分のゲートを通りさえすれば、あとはどこを通ってもいいことになっていた。おかげで難所に向かうラインを探して、他のゲートを通ることもできた。

全日本などでは、無用な迂回をさせないために逆行禁止の黄色いマーカーを置いたりしているけど、他クラスゲート進入禁止とすれば、それは回避できるんじゃないかと思っていたけど、セクション作りがむずかしくなるということで(このお答えは委員会上層部の何人かに個人的にお伺いしたものだけど)前向きな反応はもらえなかった。

それがループご自由にどうぞとなったら、いよいよセクションを好き勝手に走れることになって、そしたらせめて他ゲートくらいは走れなくしないと収拾がつかない、ということになったんだと思うけど、今年初めて自分のゲート以外が走れなくなった。

無責任な外野的観測だと、世界選手権では問題なく見えたのに、全日本ではたいへんそうなところばかりが目についてしまった。セクション作りは、下手をするとラインをつぶしてしまう恐れがあった(これはこういうセクション作りが不慣れだからだけど)。下見は自分のクラス以外に他のクラスのゲートも確認しないと、不意に他ゲート通過のペナルティを受けてしまう恐れがあった。下見にかけなければいけない気配りが増えた。そして現実には、他ゲート通過を見落とすことがままあった。ライダーは無意識につい通ってしまう。そしてオブザーバーは、それに気がつかずに減点をとらない。もちろん全部が全部じゃないし、こういうことはどんなルールだってあるもんだけど、そのワナが増えたのはまちがいない。

他ゲート通過の規制については、2025年についてはよかったのか悪かったのか、どうもはっきり見えないでいる。ループを禁止にした常識的なルールのもと、他ゲート通過NGにして、どうなるかを見てみたい。


●IAS残留がランキング10位となるのはいかなりや?

そして2025年のルール改正で発表されたもうひとつ。これは直接競技に関係することではないが、IASに残留する条件が変更になった。

これまで、IAS残留の条件はIASでポイントを獲得すること、だった。つまりCity Trial Japan(CTJ)大会をのぞく7戦のうち、1戦でも15位以内に入れば翌年もIASに参戦できる、ということだ。そしてこれまで、この条件にはずれる人はまずいなかった。

ランキング10位ということは、CTJに参戦できるメンバーのみが、翌年も引き続きIASを走れることになる。加えて、IAのチャンピオン、及びIAランキング5位までで希望する選手がIASにステップアップしてくる。

ひとつには、現在のIASの技術幅が大きすぎる、というのがある。トップライダーに聞けば5点一つが勝負を決する神経戦と言ったかと思えば、ポイント圏を争うライダーは5点をどれだけ防げたかで勝負がつくことが多い。過去には、オール5点が何人もいて、競技時間の差で勝負がついたこともある。みな、IAから昇格してきた腕自慢ばかりなのだが、そこからさらに技術向上にがんばらないと、IASセクションは走れないということなんだろう。

ただし。

去年は浦山瑞希(IBチャンピオン)、今年は宮澤陽斗(グラチャン・チャンピオン)の二人がルーキーとしてIASに参戦を始めた。彼らが来シーズン、IASに残るのは現在のポイントからして、絶望的だ。

宮澤は第4戦でクラッシュして、リタイヤしたのが痛かったが、しかしデビューシーズンにして2度SS進出を果たしている。6戦中、10位2回、ポイント獲得1回、リタイヤを含んで無得点3回。

浦山は、SS進出こそ果たせていないが、2024年には11位に入るなどして、あと一歩の活躍は見せている。彼らの成長を、もうちょっと待つわけにはいかないのか。

過去、IASに参戦したライダーで「できるできない以前に、どこをどう走ったらいいかがわからないままトライしている」と漏らした者もいる。IAS用のサスのセッティングに2年かかったと教えてくれたライダーもいた。彼らはそれなりに経験を積んだライダーだった。実績がない若者は、IAS慣れにもっと時間がかかるかもしれない。そう考えると、去年と今年のルーキー二人は、合格とは言えないにしても、ずいぶんがんばっていると思うのだ。

もうひとり、野本佳章という希有なキャラクターがいる。日本で最初にバックフリップを会得して、試合中にも披露してみんなをびっくりさせたり喜ばせたりした。オートレースライダーとなってからも、年に何回か参戦してSSを走ったりする。今年はちょっとSS進出率が悪くて、4回出場してSS進出は1回のみ、しかし残る3回は11位だった。

野本は派手なトライが好きで、地道なテクニックを駆使するトライアルがあんまり得意ではない。野本がIBのチャンピオンをとり逃したとき、チャンピオンの川村義仁は「IBでは勝ったけどIAではヨシアキのほうが走るんじゃないか」と予測していて、事実その通りになった。もう20年も前の話で、今ならそれは、そのままIASとIAの話になる。野本はたぶんIAは得意ではないから、IASを走れないとなったら、このままやめてしまいそうな気がする。

もちろんルーキーががんばっていたり、野本のキャラクターが立っているなんてのは競技の本筋とは関係ない話で、トライアル委員会が忖度することじゃない。でも少なくともIASから野本という楽しいキャラクターが去っていくことになるのは、現時点では決定的だ。

もったいないなぁという気がする。誰を走らせたい、ということではなくて、10人という数がもったいない。テクニック差が大きいということなら、トップの減点の何%以内をマークできなかったら残留ならず、でもいいと思う。仮にトップをとれる選手が20人もいたとしても、現在のランキングでは10人しかIASを走れない。さらに、トップグループから去年は野崎史高が、今年は小川友幸が負傷で戦列を離脱した。10人がいつもスタートするわけじゃない。最大10人「しか」スタートしないことになる。

現在の、15位までのポイント獲得者が残留となる前は、10位までのポイント獲得者が残留だった。このルールを今シーズンに当てはめてみると、19人中14人が残留となる。これくらいでもいいんじゃないかと思うんだけど、どうかなぁ。

そしてもうひとつ、現役IASをランキング10位で足切りする一方、IAからは最大5人がIAS入りしてくる。今回のIAS残留規則の改定は、IASのレベル格差の解消も一因ということだが、IAのトップライダーがIASを走りこなせるのならレベル格差も発生していないだろう。

さらには、世界に照準を合わせるライダーが日本に帰ってきた場合にどのクラスを走るのかなどは、トライアル委員会の裁量にまかされてるところもあるが、日本を走るライダーとの公平性も気になるところだ。

超個人的には、世界のトップを走るライダーがいなくなった現在、IASの存在意義が薄らいでいるのではないかとさえ思う。IAの上位10人をIAS級のSSに進出させて、2セクションじゃなくて5セクションくらい走らせたらどうかな、なんて思うんだけど、例によってこういう無責任な思いつきに賛同してくれる人は、まずいません。

ともあれ、2025年はもうすぐ終わる。2026年のルールがどんなふうになるのかわかんないけど、みんながへたくそにならないような、かっこいいルールになるといいと思う。