雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

ロシア外交

ニコライ

北朝鮮に自ら亡命していた元オウム信者の(そこそこ)美人が、殊勝な(金もうけになると思ったのかな?)芸能プロダクションの手助けを得て(実はめんどくさいことは早く片づけたいという両国の思いもあったと思うけど)日本に帰ってきた。
というような一般ニュースはどうでもよくて、彼女が返ってきた飛行機は平壌〜ウラジオストク〜新潟便だった。新潟に着いたその飛行機は、折り返しウラジオストクに帰っていったのだけど、その飛行機でぼくらの友人がロシアに帰った。


この男はニコライといって、ナホトカに住んでいる。ロシアンラリーでロシアに通っていた頃の知り合いで、やつはオートバイも四駆も、オフロードが大好き。おれのオートバイのパーツが手に入らないかなとか、そういうお願いに答えているうちにすっかり仲良しになったのだけど、やつは英語が話せない。こっちはロシア語が話せない。まぁ、でも、大きな問題はなく、仲良しにしている。
ニコライは、八ケ岳山麓に住んでいる宮田のところにやってきた。で宮田から「ニコライの相手をしていると仕事にならない。1日でも2日でもいいから、代わってくれ」ということで、杉谷にないしょで飛んでいったのだ。ぼくにとって、八ケ岳山麓は気持ちのいいところだけど、ニコライにとっては、ロシアの風景と大差ない。散歩すると、そういうのはイマイチ敵の興味ではない。オートバイに乗るのも、ロシアはジュネーブ条約を批准してないから、国際免許がない。ロシア人が日本のお巡りさんにつかまるとめんどくさいことになりそうだ。山の中だけだったら関係ないだろうけど、ロシアではこわいものなしで動くニコライも、日本ではおとなしい。
病気のお母さんのための血圧計を買ったり、宮田の家の冬支度のまき割りなんかをする。血圧計は、どこでも買えるけど、ニコライは中国製がいやだと言い張る。ロシアには中国製があふれていて、そのすべてが、粗悪品なんだそうだ。気持ちはわかるがね、いまどき日本の製品の半分は中国製で、血圧計に至っては見渡す限り中国製だった。日本の規格で作っているから大丈夫だよ、というところまでは話が通じない。でも、実際に動かして見せて、半分無理やり、日本ブランドの中国製血圧計を買ってもらった。
ニコライは、力持ちである。まき割りなんかは、ひょひょいのひょいだ。男たるもの、こうでなければいけない。おれなんざ、まるきり力もなく(残念ながら色男だから力がないわけじゃない)ロシアで困ったときも、力仕事は全部ニコライにやってもらった。ニコライは、雪道でスタックしたクルマを、荷締め器で引き上げたことがある。それも、あんまり重たくて、ウインチワイヤーが切れてしまったあとを引き継いでのことだ。飯は食うけど、ウインチを積むより、ニコライを積んでおいたほうが、いざというとき、役に立つ。
こういうやつと遊んでいると、日本がなぜ日露戦争に勝ったのか、さっぱりわからない。やっぱり神風が吹いたのかなぁ。ニコライは、最初はぼくらの言うことを聞いちゃいなかったのだけど、日本人の判断も悪くないぞとわかってくれた以降は、ぼくらの方針に同意して作業を進めてくれるので、とてもよい日露関係ができている。だから、やつが日本にやってきたら、みんなでいろいろお世話をしなきゃいけないんだが、日本人は、みんな忙しい。ぼくらがロシアにいくと、5分空港で会うだけのために、ニコライが150kmクルマを飛ばして出迎えに来てくれたりしたもんだけど、日本人は、みんな冷たい。おれなんか、たった1日遊んであげただけだ。
ニコライは、ディーゼルエンジンのランクルがほしかったらしいけど、いまや日本に、ディーゼルエンジンを積んだ四駆はほとんど存在していないらしい。ディーゼルエンジンを積んだランドクルーザープラドをロシア人に売ってもいいという人がいらっしゃったら、ご連絡ください。
やつは、ロシア語以外は話さないけど、最近は英語のメールをよこすようになった。翻訳マシンを駆使してるんだね。一言二言だけど、日本語のメールを送ってきたこともある。びっくり。それに対してこっちは、いまだにスパシーバ(ありがとう)とかダスビダーニャ(さようなら)とかクラシーバ(美人)とか、ほんのちょっとしかロシア語を覚えない。アクションの悪さは、本当に申し訳ない限りだ。
で、決定的だったのは、ハシだ。宮田が教えたというが、ニコライはハシを上手に扱うではないか。ぼくより上手かもしれない。ぼくはハシを上手に扱える人には、問答無用で負けたと思ってしまう(いまだに、正しい箸の使い方がよくわからない)。
そういえばここんところ、ハシについてはたてつづけにショックを受けた。もう一件は、くも膜下出血で倒れてリハビリ中のむっちゃんだ。倒れて、どんな障碍が残るかわからない、まずは手がぜんぜん動かない、という情報が入ってしばらくして見舞いにいくと、彼はすいすいとお箸を使ってごはんを食べていた。きっと、甚大な努力をしたんだと思うけど、おれなんか、ぼへーっと生きているよなぁと思い知らされた4本のハシのお話。
ハシも、外交も、むずかしい。