雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

耳鳴りと春近し?

おおいぬのふぐり

 道を歩いていると、キュッキュ、チュッチュと音がする。あったかいから、鳥が一斉に鳴きはじめたのかなときょろきょろしながら歩いていたのだけど、鳥なんぞいそうもない。足を停めると、その音も止まる。だんだんこわくなってきた。どうもこの音は、ぼくが動くと聞こえてくるようだ。


 首からぶら下げていた携帯電話をはずしてみたり、ポケットに入れてあった文庫本(ちなみにナンシー関の消しゴム顔面手帳。追悼をこめて、譲っていただいたもの)を出してみたり、セッティングをいろいろ変えて聞き耳を立ててみるが、歩くとやっぱり音がする。もちろん靴も疑って、つくも脱いでみたけど、結果はいっしょ。
 自分が歩くだけの運動量に反応して、なにかの振動が鳥の鳴き声になって聞こえてくるんだろうな。ブレーキの泣きなんかと同じ原理で聞こえてきてるんじゃないかと思うんだが、そういう考察をしている場合ではない。ひょっとして、耳だか脳だかに再起不能の重い欠陥を患ってしまったのではないかと、急にびくびくしはじめました。命の危険を感じるとおたおたするなんて、人間ができていない。
 頭の中で、知り合いに耳鼻科の専門家はいないかと自問自答。小学校の時の友人のKは歯医者だし、中学の友人のMは心臓。どちらも今はお世話になりたくない。小児科のM御大に相談してみようかなぁ。どきどき。
 そうこうするうち、陽も高かったし冷や汗もかいたので、暑くなってしまった。それでフリースを脱いだところ、なんだ、音がしなくなったじゃないか。フリースと化繊のシャツとの干渉だったのね。ユニクロじゃなくて、ノースフェイスのブランドもんなのに、お騒がせだこと。ちぇ。
 気持ちが晴れて、近所のメシ屋さんへ。おばさん二人でやっている小さな店。お昼の定食、400円。
「今日は外はあったかいでしょ」
「暑いくらいです。汗かいちゃった(汗かいたのは勝手に勘違いしての冷や汗だけど)。このまま春になるんですかねー」
「このまんま春になってもらったら、困るんだけどね……」
 あったかければ、ぼくなんかにゃ悪いことはないんだけど、でも考えてみるとだ、サウナに入って爆発しそうになって水風呂に飛び込もうとしたらそっちも暑かったらメリハリってもんがなくなる。地球にとって、農作物にとって、もしかしたら人間にとっても、夏は夏、冬は冬というメリハリは大事なのかもしれぬ。逆に言えば、ちゃんとした季節のメリハリのあるところで生活していれば、ちったぁまともな人間になれるのかもしれないけど、ぼくが引っ越してきたとたんに季節もメリハリがなくなった。申しわけないなぁ。
 写真は裏山一面に遠慮がちに咲いていたやつ。辞典を調べたらオオイヌノフグリらしい。ふぐりに似ているらしいけど、似ているのは花じゃなくて種だそうな。種ってのは、芋だってそうだし、おおむねふぐりに似ている。というか、ふぐりだって種そのものじゃないか。
 と、さっきまで人生の終焉を覚悟していたのに、急に下ネタで盛り上がっている浅はかなニシマキの午後。