雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

山の中から

遊木館からの朝日
太平洋に上る朝日

 秩父の山の中から福島県の山の中に引っ越して1ヶ月がたった。引っ越したといっても、週末にどこかに出かけている生活は変わんなくて、日曜日が終わったときに、さて、ぼくはどこに帰るんだっけ?と少し考えたりしている今日この頃です。
 引っ越しが趣味ですか? とも聞かれたけど、そういうわけじゃないです。でもこの10年ちょっとの間に4回、この1年の間に2回引っ越してるから、趣味になっちゃったのかもしれないです。しかも、この先、もう一度引っ越す予定もあります。というのも、今住んでるのは仮住まいだから。廃校の用務員室に住み込みで入る予定で引っ越してきたんだけど、屋根が雨漏りしていたり、最後の契約書がまだ交わされていなかったりで、すぐに学校には入れなかった。こういうこと、よくあることです。予定が変わったから、こっちも予定を変更すればよかったんだけど、そうそう急にかじ取りを変えられないこともあるもんだ。


 今の住まいは、村のTEさんにさがしてもらった。引っ越してくるまで、自分がこれから住もうという家を見てもいなかった。数年前までおばあちゃんが住んでた家で、今おばあちゃんは街のほうで暮らしている。もともと茅葺き屋根の家を、トタンをかぶせて補修した、よくある昔ながらの家だけど、こういう家に住んだことはないから、これも貴重な経験。
 家を開けたら、湯飲みや急須がのったこたつが鎮座していて、神棚もある。タンスには浴衣なんかも入ってる。今さっきまで、誰かが住んでいた感じ。ぼくの家といいつつ、いまだにおじゃましますという感じが抜けない。使えるなら、布団も使っていいということだけど、なんだかなぁ。
 大家さんのおばあちゃんは大正13年生まれ。足が悪いということだったけど、訪ねてみたらたいへんお元気だった。足が悪いのはほんとうみたいだけど、つい最近までどこも悪いところがなく、最近になって膝が痛くなったから、からだにガタがきたとご本人はショックらしい。ぼくなんか、おばあちゃんの年まであと30年以上あるけど、すでにあっちこっちガタがきてますと解説する。おばあちゃんも、接骨医で出会う患者仲間が、みんな自分より若いのに症状がひどいのを見てきて、もしかすると自分は元気なのかもしれないと思いはじめたところだという。そう、元気なおばあちゃんなのだ。
 ごあいさつに訪ねていったというのに、いきなりお風呂を勧められて、お断りするのもなんだから入ってきた。そのあと亡くなったご主人の思いで話とか聞かせてもらったわけなんだけど、これが戦争にいった中国の話で、そこから話題は北朝鮮になりアメリカになり。ちょっとした時事講話だった。戦争の話はさて、おばあちゃんによると、戦争の頃までは山にイノシシなんか出なかったそうな。あの食べ物がなかった時代にも、人間とイノシシはちゃんと棲み分けしていた。ところが戦争が終わったら、イノシシは人間の庭先まで出てきて、畑の食物を荒らしていくようになったんだそうだ。戦争以前の世界を知らない世代は、もしかするとすでに本来あるべき世の中のかたちを知らないでいるのかもしれない。
 おばあちゃんちは、携帯電話が通じない。いまどき、村の中でも電話が通じない集落はそんなに多くないんだけど、ここは山の陰で、どこの電話キャリアも全滅だ。固定電話は、近々移動の予定もあるので引く気になれない。というわけで、ここにいると連絡がとれない。なので、日中はなるべく電話が通じるところで仕事するようにしている。LANが使えて電源をお借りできれば、どこでも仕事場になってしまうので、こんなときには便利。トライアル遊びをしていると、日中は山にこもって電話が通じないことが多いけど、今のぼくは家にいるときが圏外。お急ぎの時は、電報をください。
 家は、もともとあった茅葺き屋根の家に、一部屋増築してある。この増築した部分は、最初からトタン屋根だ。増築部分は、ちょっと日が当たると、暑くなる。茅葺き部分は、ひんやりしている。かなり湿気もあるみたいだけど、あんまり健康を害すような湿気には思えない。そういえば、カビなんかあんまりない。横浜のアパートは、夜になると窓枠がすっかり結露していて、湿気たっぷり、いろんなものにカビが生えた。ここはそんな感じじゃなくて、どっちかというと、ひんやりした森の中にいるような湿度。気密性が低くて、家の中にいてもアウトドア感覚、なのかもしれないけど、屋根の下にいながら森林浴をしているような気分でもある。
 なーんて書くと、うらやましいと思う人も多いんだろうけど、そこはそれ、大正生まれのおばあちゃんの生家なのだから、年季が入っている。しかもここ数年は、あんまり人が立ち入っていない。畳は激しい起伏があって、なかなかオフロード感覚。ただしジャンプしてはいけない。今でも畳が大きく陥没しているところがある。飛び跳ねようものなら、そのまま床が抜けてしまいそうだ。寝るにも方向をまちがえると、夜中に傾斜にそってゴロゴロ転がって、部屋の隅までいって、最悪は床下に落ちてしまうかもしれない。毎晩がスリリングだ。
 水は、沢の水と井戸の水がある。沢の水は、とりあえずおいしい。上流には牧草地などあるので、もしかしたら農薬の類が混ざっているかもしれないけど、それほど多くはないんじゃないかと高をくくる。井戸水のほうがきれいでおいしいとおばあちゃんは言うんだけど、ポンプのエア抜きをして電源を入れても、むなしくポンプが空回りするだけで、一滴の水も出てこない。プロパンガスも、まぁしかり。つまりなんというか、沢の水を携帯ストーブで沸かして飲むという、まるっきりアウトドアな生活を屋根の下で送っている。この家に住み続けるつもりだったら本気でなおさなきゃいけないけど、今はおばあちゃんの大事な家に風を送る役目だけを送っている。

ほうの木の葉の飛行機
ほうの木の葉の飛行機

 肝心のプロジェクトといえば、まだ始まってはいません。最初に書いたように、最後の契約がまだ完了していない。村の大事な財産を借り受けようというのだから、いいかげんなスタートはできないので、もうしばらく待機する。村にもオートバイを好きな人ときらいな人がいるので、しばらくはオートバイは表に出さないで行動しようかなと思ってる。
 昔から、地域でオートバイ活性化を行っている人に、イベントなどの時以外、オートバイにやってこられるのを好んでいない雰囲気を感じて、どうしてかなぁと不思議に思っていたけど、今現在のぼくの感覚でいうと、地域で問題を起こしたくないという守りの姿勢と、やってくるオートバイがみんな問題を起こさないいい人とは限らないという疑心の気持ちなんですね。残念だけど。そんなわけで、校庭でダートトラックをやりたいTっぺいさんも、気長に待っててください。