毎年高齢もとい、毎年恒例の「全日本」四十雀トライアルミーティングは、9月27日岐阜県郡上の鷲が岳スキー場で開催された。
今回の(今回も)最高齢は堀内浩太郎さんで82歳。しかし堀内さんは、腰痛のため大事を取って今回は見物のみ。70歳以上のライダーをさして呼ばれる神様の中でも格上の神様の欠場で、若い神様たちに勝利のチャンスがめぐってきた。
結果、減点3、ハンディ7(堀内さんよりもまだ7歳も若い)の伊藤静男さん(75歳)が、人生ではじめて四十雀トライアル優勝の栄誉に輝いた。
四十雀トライアルでは、最高齢のライダーのハンディをゼロとして、年齢が一つ若くなるごとにハンディを1点ずつ与えていく。セクションは、どこを通ってもいい共通ライン。国の宝であるお年寄りをけがさせてはいけないから、セクションは極力危険がないように配慮されて作られている(もちろん、それでも転倒はあるし、痛い思いをしてリタイヤされる方もいらっしゃる。不慮の事故はどんなことをしても起こりうるが、配慮がなければもっとあぶない)。
このセクションに物足りない若者(といっても50代とか60代とか)ライダーは、セクションの中を右往左往して自分なりのラインを見つけていく。失敗して減点を重ねれば成績は悪くなるが、もともと50代ならなにもしなくても30点からのハンディかついてくる。オールクリーンをしたところで勝てやしないのだった。
今、四十雀には大きく分けて3つの人種がいらっしゃる。まず70代以上の大御所たち。彼らこそが27回の四十雀を脈々と続けてきた原動力。そんな彼らは、しかし全日本選手権で活躍したとか、地方選手権で名だたるライダーだったという肩書きはほとんどない。第1回から欠かさず参加している蓮池光志さん(66歳)は、第1回大会のときにはちょうど40歳だった。その時分、40歳でトライアルをやっているライダーは、完全におっさんライダーだった。四十雀という名は、創設者でコピーライターの長尾藤三さんのセンスあふれるネーミングだが「40から」トライアルを始めた平民ライダーのミーティングという大事な隠しテーマも含まれている。
しかし中には、若い当時はばりばりにトライアルに励んでいた人もいらっしゃる。これが第2の人種。彼らも、時間が流れれば歳を取る。4回の全日本チャンピオン、近藤博志さん(61歳)やチームミタニの尊師、三谷正次さん(61歳)をはじめ、昔取った杵柄とともにやってくる人もいる。今でも現役ライダーとしてオートバイにはよく乗っている三谷さんはTLR200Rでちょっと自己ハンディを課し、肘の具合がいまいちよろしくない近藤さんは(去年は、一度も転んでいないのに四十雀のあとしばらく、腕を吊って暮らしていたそうだ)、最新型ばりばりのモンテッサ・コタに乗る。現役当時の戦い方走りっぷりと、歳を取ってからのそれは、人それぞれいろいろなのである。
今回主催の実行部隊となった郡上トライアルクラブの面々も、昔とった杵柄の人たちばっかりだ。小酒井紀夫さん(54歳)はTY250Jワークスマシン(どこから手に入れたんだろう)を走らせ、久しぶりに中部選手権を走ってNBチャンピオンとなった志津野勉さん(55歳)ははじめて買ったマシンだというバイアルスでのエントリー。ものもちがいいというか、この日のためにせっせとマシンを整備してきたにちがいない。
全日本チャンピオンといえば、初代全日本チャンピオンは木村治男さん(55歳)。今のところ、全日本チャンピオンで四十雀に出場したのは、近藤さんと木村さんのふたりだけである。しかし木村さんの場合、ただ出場するだけではない、いろんなミッションを携えて四十雀にやってくる。
ひとつが、御大堀内さんをお連れすることだ。堀内さんはボートが専門だが、ヤマハ発動機の重役さんだった。現役のヤマハマンである木村さんにとっては、まさに神様のような存在なのだ。
もうひとつ、今年の木村さんが担った大仕事は、四十雀の新入りをリクルートすることだった。不肖ニシマキは今年52歳にもなってしまったが、しかし長いこと四十雀の最年少だった。トライアル界全般の問題にも似て、ここでもまた、新人の出現が少ないのだ。今回は、ヤマハモータースポーツのバスにTY-S125Fをぽこぽこと積み込み、40代ライダーを大量動員させてくれた。
こういう層が、四十雀第三の人種になる。最近トライアルを始めたはいいけれど、世のトライアル大会はどこもむずかしい。そんなニューカマー(といってもみんな40代以上だけど)にとって、四十雀の雰囲気とセクション設定は、これ以上ない舞台となっている。
さらに四十雀には「うぐいす」という女性部門がある。うぐいすは四十雀クラスとちがって年齢ハンディがない。女性はみな20歳でまちがいないというのが、長尾さんのすてきな思い込みだった。こちらのクラスにも、木村さんは若い20歳ライダーをふたり投入してきた。
そしてもうひとつ、十姉妹クラスというのがあるジュウシマツだから、14歳以下限定。今回は宮地健太くん(14歳)がお父さんの由夫さん(49歳)とともに参加。健太くんはこれを最後に、あと26年間、四十雀には出られない。いつでもどこでも、女性は優遇されているのである。
まだまだ、紹介すれば枚挙にいとまがない濃ゆいじいさまたちが大集合。このじいさまたちの熱戦を一目見ておくのは、いかにあなたが若造であっても、きっとよい冥土の土産になるにちがいない。来年の四十雀の開催地は未定だが、ぜひ一度四十雀にやってくるべし、なのである。

堀内浩太郎さん
そんなこんなで、堀内さんが泣く泣く見学組に回ったことで、伊藤静男さんの初優勝が決まった。伊藤さんの減点はハンディ込みで10点だから、ハンディのない堀内さんが走っていれば、やはり手強い相手だったのだ。
日頃伊藤さんはじめ、70歳代の入門間近の神様たちはぼやいていたものだ。「おれたち若造はいくらがんばっても、堀内さんがいる限り、勝ち目がない」。70代は、まだまだ若造だったのだ。
そんな若造が、日の目を見る日がやってきた。これでいよいよ、神様の代替わりかと思いきや、どうもそういうわけではないらしい。
聞けば堀内さん、オートバイの「全日本」大会の前に、ボートの「世界大会」に出場の予定があった。こちらはかつてオリンピックで活躍したような選手がずらりと並ぶ強力なマスターレース。東京オリンピックではボートの監督の務めた堀内さんのこと、こちらも簡単に勝利するのかと思いきや、なんとアメリカには手強い80歳がいるんだそうだ。そしてその80歳に勝つべくトレーニングに励んだ堀内さんは、ちょっとやりすぎてしまって腰痛を患ってしまったのだった。
「自分で走らないで、外から眺めていたら、また別の楽しみが発見できた。来年、体調を整えて戻ってきます」
とは堀内大神様の玉音。若造たちは、まだまだ年老いているわけにはいかないみたいなのだ。


