雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

お引っ越し



こどもの国駅付近

 急に、というわけでもないんだけど、引っ越しをすることにした。本日は、その引っ越しの顛末。
 考えてみたら、これまで何度か引っ越しをしてきたけれど、引っ越し屋さんというのをお願いしたことがない。友だちにトランスポーターを出してもらったりして、えいやと荷物を積み込めば、おおむね荷物の移動は完了する。荷物のいっさいがっさいを持って知床半島とか沖永良部島とかに移住するんじゃなければ、引っ越しくらいは自分でなんとかできようと思ってました。
 でも、結局こんなどたばたになっちまったというお話。



夏の日のこどもの国ホーム

 なんだかおれ、もともとそうなんだけど、近年、どんどんめんどくさがり屋になっていっている。困ったもんだ。ふだん右のものを左にも動かさないやつが、すべての荷物を梱包するなんてまめなことができるわけもない。と気がついたのは、荷物をあらかた部屋にばらまいてからだった。
 さらにね、こんなことは1年も前から決まっていることだけど、ぼくが引っ越しをしようという日程は、ベルドン参加とアンドラ取材から帰ってきて、ベルギーの最終戦とデ・ナシオン取材に出かける、そのまっただ中だった。しかもその間に、自然山通信10月号を仕上げなければいけない。
 最近、ぼけっとしているときと突貫工事をしているときのコントラストが激しすぎて、どの程度の仕事なら可能なのか、さっぱりわかんなくなっている。こりゃできないわとようやく悟ったのは、ベルギーに出発する1週間前くらいだった。そういえば、ベルギーに行く前にお食事をご馳走します、なんて約束をさるご婦人からいただいていたのだけど(オートバイ関係ではなくて、お役所関係の方。詳細は省きます)、そういう約束があったのを今になって思い出した。とてもじゃないけど、お食事なんていただいている場合ではなかった。
 そんで、おたおたと引っ越しの段取りをはじめた。引っ越しってのは、いったいどうやってやるもんかね。と思ったら、引っ越し見積もり専用サイトがあるではないか。ざっとこっちの条件を入れたら、数社から返答がきた。でも、よくわかんない。どこも、自分が安いってことしか大きな声では言わないからね。で、小さな声でこれとこれは別途申し受けます、なんていって、結局同じ金額になるわけだ。めんどくさくなって(最初からわかっているのに)、鉛筆倒して決めたのが、引っ越しのサカイだった。徳井優のファンではないんだけど、あんまり考えている時間はないのだ。
「もしもし、引っ越しをしたいんだけど、引っ越し準備をはじめたところで急に(うそつけ)海外出張にいくことになって、荷物がばらばらなんですけど、とにかく期日までに部屋を開けなきゃいけないので、なにからなにまでいっさいお願いできますか」
 まぁ、そんなこんなで、少々お高かったけど、そりゃ、ぼくはなんにもしないという条件で、しかも現状が、かつてないほどにとっ散らかっているんだから、これでも安いくらいだと思って話を進める。見積もりには営業マンがひとりやってきた。お米のおみやげ付。なぜお米なのかよよくわかんないけど、まぁありがたくいただく。しかも、残り日数を数えたら、もうあと数日もなくて、その貴重な週末にお出かけしたりしたもんだから(このお話も書いてない顛末のひとつ)、引っ越しできる日はたった2日だった。



作業中の部屋。
ちなみにこの部屋は、
半分物置きでした。
もともと。

 その日の朝、まず営業マンが二人やってきて、段ボールを大量に置いていった。ネクタイ締めたその方々は、それきりさよならだ。それから30分後、今度は肝っ玉かーさんみたいなおばちゃんと、ちょいと非力そうなおばちゃんがふたり、セットになって現れた。で、片っ端から荷物を段ボールに放り込んでいく。もちろん、紙にくるんだりして、道中破損がないように気を使って梱包してくれてるんだけど、まぁ、中にはどう考えてもゴミみたいなものがいっぱいあるので、ぼく的にはそのままブルドーザーかなんかで全部まるごとコンテナに詰めて持ってってもらってもいいんだけど、お引っ越し屋さんとしてはやっぱりそうもいかないわけだ。それはどうでもいいです、それはゴミです、とか指示を出しているときりがないし、そんなことができるくらいだったらとっととやってるわいというわけで、おばちゃんふたりが梱包作業をしている気配を背中に感じながら、仕事する。
 ふと振り返ってみると、あらまー、きれいさっぱり、部屋の中のゴミが全部段ボールに吸い込まれている。素晴らしい!
 ちょうど、お菓子をいただいたところだったので、休憩のときにでも食べてねと置いておいたのだけど、目を離した隙にもうひとりのおばちゃんがさっさと梱包しちゃった。この場合、お菓子を食べそこねたおばちゃんたちもお気の毒だが、そのおかしをくさらないうちに食べなければいけないという使命が生じたぼくも、ちょっとお気の毒なのだ。
 おばちゃんの仕事は、2時間ちょっとだった。すばやい。でも非力そうな方のおばちゃんは、ごほごほ咳してかわいそうだった。部屋に積もったほこりをすったんだよね、きっと。ほこりが積もった部屋は、思いきって掃除するか、そのままそっとしておくか、どっちかが、平和だ。今日は部屋の空気を思いきりかき回したから、ほこりも久々に自由に動き回っているにちがいない。
 こんなになる前にもうちょっと片づけておけよ、と言いたくなりませんか? と聞いてみる。おばちゃん、お困りの様子。ということは、やっぱりそう思ってるんだよ。当然だ。
 そろそろお仕事やめていただいて……、という声で振り向いたら、以前の部屋の面影を残しているのはぼくの周囲1メートルだけで、あとはすっかり段ボールだけになっていた。



1時間後の同じ部屋

 こうしておばちゃんたちは去って行った。冷蔵庫、机、コンピュータはそのまんま。こういうのは、この次の舞台が担当するらしい。で、やってきたのが2トントラックとお兄ちゃん二人だった。
 なんだか、サンダーバードの国際救助隊みたい。最初にサンダーバード1号がやってきて、次から次へと工作部隊が現場を訪れ、最後に巨大なサンダーバード2号がやってきて、すべてを解決して去っていく。できれば、ペネロープさんみたいなのがロールスロイスに乗って現れてくれるとうきうきだったけど、まぁぜいたくは言うまい。
 トラックへの積み込みは、ほんの1時間ほどで終わった。入れ替わり立ち替わり、半日で部屋の中の荷物はきれいさっぱりなくなった。残ったのは、ヨーロッパ行きのスーツケースがひとつと、クルマに放り込んでおけるだけの荷物が少々。これだけあれば、仕事も生活もできるのに、なんでこんなに荷物が増えちゃうかな。せっせとゴミを捨てればいいのかな。世の中って、いかにゴミを製造しているかっていう証ですね、きっと。といいつつ、自然山通信もどこかできっとゴミになっているから、あんまり大きなことをいうのはやめようッと。
 横浜から秩父の先までは意外に遠いということで、その日のうちに移動するのはやめて、サンダーバード2号はぼくの荷物を積み込んだまま、トレーシー島へ帰っていった。翌朝、現地で待ち合わせだ。9時頃でいいですか? と聞かれたので、何時でもよければ10時ってことにしましょう。起きる自信がないからと少しひよる。
 で翌日。途中ほんのちょっと寝てしまって、約束に10分くらい遅刻していく。
「そうですか、落ちてしまいましたか」
 と眼鏡のトレーシーくんは笑ってた。作業が始まるや、ぼくもまだ1度しか立ち入ったことがない家の中に、どんどん荷物を入れていく。あっという間に段ボールの箱だらけになって、お兄さんたちは帰っていった。
 うちの前には、温泉施設がある。しばらく片づけをして外をのぞいた見たら、まだサカイのトラックが止まってた。飯でも食ってたのかな。それとも、あの日は暑かったから、ひとっ風呂浴びていたのかな。いずれにしても、ご苦労さまでした。
 オプションメニューには、荷ほどきなんてのもあったけど、荷物をほどいてもらっても、格納する場所がない。もとのままにされたら、また部屋中が荷物だらけになってしまうだけだから、これはご遠慮申し上げました。



ぼくの場合、これだけ
あれば暮らせる

 そして、横浜に取って返し、スーツケースとコンピュータを持って、翌朝杉谷を迎えに行って成田空港へ。ヨーロッパ取材を終えたあと、今度は横浜でやり残したことをやって、一路秩父へ。
 それで気がついたのだ。今回は時差ボケがまったくなかった。いつも、時差ボケは外国へいくときよりも帰ってくるときのほうがひどい。太陽と反対方向に飛行機が飛ぶからだとか、いろんな説があってどれも納得できるけれども、ここではひとつ、緊張と安心説を唱えてみる。
 外国へ行くときってのは、たいてい未知のところへ出かけていく。なにが待っているかわかんない。緊張する。時差ボケなんかしているヒマが(あんまり)ない。ところが日本に帰ってくるときには、安心材料が多い。無事に帰ってきた、ようやくたくわんの漬け物でお茶漬けが食べられる、日本語のラジオが聴ける、左側通行で道が走れる……。安心するから、疲れにまかせて眠ることができる。昼間っから、つい寝てしまう。これがいかん。
 今回は、旅先から、旅先へ帰ってきてしまったようなもんだ。しかも、段ボールを解凍して、必要なほんの少々の荷物を探り当てるという宝探しの仕事が待っていた。悠長に時差ボケなんかしているヒマはないのだった。
 おばちゃんたちの仕事はなかなか几帳面で、すべての段ボール箱には、荷物があった場所と、中身の概要が書いてある。「仕事場の押し入れ・本」なんて感じ。最初の2〜3箱は、そのとおりに目安がついて、これは当面いらないから奥にしまっちゃえ、なんてことをやっていた。しかして、ずらっと並んだ箱を見てがく然としちゃいました。ほとんどすべての箱に「床の上」って書いてある。足の踏み場がなかった部屋で荷造りをしてもらうと、こういうことになるんだね。盲点でした。
 歯ブラシが出てきたのに歯磨きがない。コーヒーが出てきたのにコーヒーカップがない。今、部屋の中は5種類くらいのジグゾーパズルがばらばらにばらまかれたような状態で、まずその分類からちまちまとはじめているのだけど、うーむ、次に引っ越しするのがいつになるかはわかんないけど、きっとまた「まるごと全部運んでちょうだい」とお願いすることになるのかなぁ。
 写真は、ちょっとだけ感傷にひたって、こどもの国の駐車場をバックに走るこどもの国線と、こどもの国で遊んで帰りの電車を待つ子どもたちの写真など見つけてきた。こういうの、住んでるときにはいつでも撮れると思ってるけど、いつでもできると思ってることって、結局いつまでもできないことが多い。