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2016トライアル・デ・ナシオンに日本チーム参戦
7月3日、MFJは2016年トライアル・デ・ナシオン(TDN)に、日本チームが参戦することになったことを発表した。参加ライダーは、世界選手権ランキング現在3位の藤波貴久(レプソルHondaチーム・モンテッサ)、小川友幸(HRCクラブミタニ・ホンダ)、黒山健一(ヤマハファクトリーレーシングチーム・ヤマハ)の3名だ。
これまでTDNの男子チームは4名で構成されていたが、今年から男子も女子も3名で構成されることになった。ヨーロッパ圏内の派遣国にはピンとこないかもしれないが、日本やアメリカ、オーストラリアなど、別大陸から遠征する国々にとっては、派遣費用がその分削れるのはメリットなのかもしれない。
今回選ばれた3名のライダーは、今の日本のベストメンバー。かつて日本はこの3人に野崎史高、田中太一、あるいは小川毅士の中から選ばれた代表チームで、世界トップを争う戦いを続けてきた。2000年スペイン大会、2007年イギリス(マン島)、2008年アンドラの3大会で、日本はスペインに次いで2位に入っている。2004年以降、TDNではスペインの圧勝が続いているが、それ以前はイギリスとスペインによる戦いで、日本もそこに完全に割って入っていた。世界選手権に全戦参加しているライダーばかりを集めてチームを作っているライバルチームに対し、世界参戦ライダーが少ない(今では藤波一人になっている)日本がトップ3を争うというのは、フランスやイタリアには驚異となっていたはずだ。
昨年は、藤波貴久、小川友幸、小川毅士、柴田暁の4人によるチームで(昨年までTDN男子チームは4人構成だった)、フランスとの2位争いを展開した末に、3位表彰台を獲得した。日本チームの表彰台は、7年ぶりだった。元世界チャンピオン、全日本チャンピオン、全日本ランキング4位、全日本ランキング5位の4名によるチームは、世界のトップ争いができる、この時点で日本が派遣できる、ベターチームだった。しかしご存知のとおり、ベストではない。
2009年以降、日本チームはベストメンバーを派遣できていない。TDN参戦は、参加の主体は国となっている。日本でいえばMFJだ。実質的には、いつもの参戦チームがライダーのマネージメントや競技を支えることになるが、参加主体はあくまでもMFJだ。しかしMFJはライダーに派遣費用の全額を提供することができない。仮にライダーの遠征費用が全額でたとしても、競技には必須のアシスタントの遠征費用までは出せないのが現実だ。
一度きりの参戦ならそれでもお国のためにと立ち上がるも、毎年そうなると、費用的にも体力的にも厳しいものになる。自然山通信では、1999年にTDN参戦が復活してから、細々と募金活動を継続しているのだが、なんせ一度に4人、女子もいれると7人にもなる遠征費のたしにしてもらおうと思うと、みんなからもらった募金もあっという間になくなってしまう。ひとり10万円とかだと、遠征費の一助になるというより、おせんべつみたいな感じになってしまう。お国のため、ファンのため、みんなのためにと思っても、自腹を切って何年にもわたって参戦するとなると、やっぱりいろんな意味で疲れてくる。
それで、行かせたい人より行きたい人に行ってもらうTDNチーム体制を組んだりもした。今、トップを争えるチームを組むとなると、そのメンバーはみんなかつて世界選手権に全戦参加してきた面々だが、ヨーロッパの世界選手権を走ったことがない日本人ライダーもけっこう多い。こういうライダーがかわりばんこにTDNに参戦するのは、将来に向けても意義がある。
TDNには、いわゆるAクラスとBクラスがあって、日本はスペインやイギリスといっしょで、常にAクラスに参戦している。元世界チャンピオンの藤波貴久がBクラスを走るというのは、FIM的にはあり得ないらしい。でもちょっと失礼ながら、TDNの成績や世界選手権日本大会の結果を見ると、TDNでトップグループを走れるのは、過去に世界選手権を全力で戦ったメンバーによる日本チームで、それは世界選手権でポイントを獲得できるライダーたちだ。IASのライダーなら誰でもAクラスをそれなりに走れるのではないかと踏んでいたこともあるが、どうもそれは甘かった。IASのライダーが3人でBクラスに参加したら、Bクラスのトップ争いができるかもしれない、というのが、最近のなんとなくの共通の見解となっている。でもそうなると、藤波抜きの日本チームとなって、FIMは「藤波抜きなんてありえんだろう」ときょとんとしてしまうのだ。
ということで、一口に日本代表選手に選ばれるといっても、てばなしで喜んでいられない理由がいろいろある。TDNを応援してくれる人は多いけど、実際に観戦に行く人はごくわずかで(だいたい、毎年ひとりかふたり、日本人の観戦者に出会う)、興味がない、という人も少なくない。ライダーにすれば、日本のみんなに応援してもらってはじめて、苦労をいとわず、もしかしたらいくらか出費があるのも知らん顔して(ほんとはそんなことなく、参戦してきてほしいのだけど)TDN参戦が実現するというものだが、現実はむずかしいのだ。なんせ、かつてはTDNの開催日と全日本の開催日がバッティングしていたこともあるし、去年まではTDNの1週間前に全日本が組まれていた。TDNにでようと思うと、とてもとても忙しい日程になる。
すいません。日本チーム結成で、がんばろうニッポンと明るい話題で押したかったのだけど、TDNのチームをまとめて参戦する舞台裏や苦労をいっぱい見ているもんで、ちょっとそのへんもわかってもらいたくなった。そんなこんなで、ほんとは九州大会でTDN参戦壮行会をやるはずだったらしいんだけど、連絡がうまくいってないという、これまた舞台裏の苦労があって、公式通知の掲示板にひっそりと発表があっただけということになってしまっていた。
産みの苦しみはさておき、今年のTDNでは、日本チームのトップ争いが期待できる。スペインの優勝は、まずまちがいないだろう。もしかすると、肩を負傷しているトニー・ボウは最終戦が終わったらすぐ手術を受けることになるかもしれないけれど、それでボウが欠場になったとしても、2016年のゼッケン2、3、4がそろう最強チームなわけで、これに勝つのはなみたいていのタイヘンさではない(でもまったく不可能ということはないと思う)。
最近のTDNではフランスが2位の座を得ることが多い。昨年も、日本を下して2位になっている。フランスはアレックス・フェレールとロリス・グビアンが二大大黒柱だが、ライダーの格付けとすれば日本の方が上位になる。それでも昨年は、藤波と小川友幸のいる日本に勝っていた。この勢いが今年も持続していれば、フランスはホンモノのトライアル強国になれる。しかも今年のTDNはフランスでの開催だ。フランスには分がある。
一方日本にとって不利なのは、スタート順だ。日本はしばらくぶりの参加となるので、スタート順が一番先になる。誰もまわりにいない。みんなを待っていると時間がなくなる。これは苦しい戦いだ。それでも、こんな状況はかつて2002年のポルトガルで経験している(2001年、日本はニューヨークのテロ発生に端を発して欠場し2002年のスタート順は一番先頭だった)。そのメンバーが参戦する2016年TDN。さまざまな苦境をのりこえて、日の丸を世界の舞台にはためかせてほしい。
2016 TDNは、2016年9月10~11日、イタリアとの国境に近いフランスのスキーリゾート、Isola2000で開催される。
https://www.shizenyama.com/wp-content/uploads/2016/07/20160704-142408.pdf