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トライアルとは?

ABSとトライアル

 1月21日、国土交通省は、二輪車に先進制御システムABS/CBSの装着を義務化するために保安基準改正の発表をした。この改正により、二輪メーカーは125ccを超える二輪自動車にはABSを、50cc超125ccまでの第二種原付にはABSもしくはCBSを装着しなければならない。新保安基準の適用時期までにはしばらくの猶予があるが、2021年10月1日以降は例外を除くすべての二輪車がABS(もしくはCBS)を装着することになる。

https://www.shizenyama.com/wp-content/uploads/2015/01/1501abspress.pdf

 さて、トライアルはどうなるのか?

 ABSやCBSは、おもいきり簡単に説明してしまうと、技術がない人でも安全にブレーキングできるようなシステムで、路面状況に応じて制動力をコントロールしたり、前後輪ブレーキを同時に動作させたりするメカニズムのことだ(詳細は国土交通省の報道資料を抜粋しておいたので、読んでください)。
 このメカニズムが装備されれば、滑りやすいところでのブレーキングなど熟練の技が必要なシーンで、初心者ライダーが安全に止まれるようになる。トライアルシーンでも、慎重な捜査が必要とされるちゅるちゅるの下りでも初心者ライダーがクリーンで通過できる魔法のテクノロジーになるのかもしれない。
 しかし同時に、このメカニズムは重量増加が不可避だ。重量だけではなく、新たなテクノロジーを追加するのだから、値段にも反映される。つまり重たくて高価なオートバイになるわけだ。
 しかし幸か不幸か、この魔法のテクノロジーは、トライアルライディングにおいては利用されないことになりそうだ。同じく国交省の報道資料には「エンデューロ二輪自動車及びトライアル二輪自動車を除く」と明記されている。エンデューロ用マシンのタイヤを換装したモタード仕様のものはどうなるのだろうかという疑問は残るが、とりあえず我々のフィールドに限っては、ABSやCBSとは縁がなさそうである。
 もともとこういった規制は円滑で安全な交通環境の実現のためのものだから、訓練的要素の高いトライアルなどにその技術は必要ないというのが国交省の見識だろうか。ABS装備のマシンでちゅるちゅるの下りを下ってみたい好奇心はあるものの、そのために重いマシンとなるなら、ABS未装備の軽量マシンの方がありがたいかもしれない。
 下り坂では、往々にしてリヤタイヤをロックさせたまま降りてくる場合がある。急な下り坂ではリヤタイヤの制動力は極端に落ちてしまって、これをロックしないようにコントロールして下るのは至難の業だ。それならロックさせたままのほうが、少なくともコントロールの手間は省けるし、ライダーはフロントブレーキのコントロールに集中できる。ABSが装備されていると、こんなシーンでもリヤタイヤをロックさせないようにコントロールするから、タイヤをロックさせたまま降りるという芸当はできなくなりそうだ。
 自動車にドアがつき、次にはロックがかかるようになり、窓が開かなくなり、シートベルトが義務づけられ、エアバックが標準装備され、安全性はどんどん高まっている。それでも事故はなくならないから、ますます安全に配慮された乗り物が開発されていく。あまり一般的でない見解としては、安全の最大の敵は油断や慢心であり、安全装置は簡単に油断や慢心を誘うことは多いが、実のところどれだけ真の安全につながるのか、疑問に思う。

1408百科小川下り

 でもまぁ、ここでそんな議論をふっかけていてもしょうがない。真実としては、近い将来、トライアルマシンなどのオフロード専用マシンは(よけいな)安全テクノロジーが装備されていない、数少ないカテゴリーになるだろう、ということだ。
 トライアルマシンには(そうでないトライアルマシンもあるけど)ABSやトラクションコントロールはついていない。セルモーターもない、ニュートラルランプもない。燃料タンクにリザーブタンクもついていないものさえある。これほど、ありとあらゆる快適安全装置と疎遠な二輪車は、近い将来といわず、今現在でもトライアルマシン以外にはありえない。
 これまでは、新しいテクノロジーを装備したオートバイに乗っているライダーは、それだけで優越感にひたれたものだったが、今後は、ほんの選ばれたものだけが、ローテクの世界を実感できることになる。トライアルは、オートバイらしい操縦技術を楽しめる最後の楽園として存続し続けていくにちがいない。
 ということで、ブレーキングが苦手な人は、ABS装備を待つことなく、小川友幸選手に下り坂のノウハウを教わってくださいね。自然山通信から「トライアル百科小川友幸の下りを極める」DVDが出ています。

国土交通省の報道資料

2.改正概要
(1)保安基準等の改正

① 制動装置(保安基準第12条、第61条、細目告示第15条、第93条、第171条、第242条、第258条、第274条関係)

二輪車に先進制動システム(アンチロックブレーキシステム(ABS)/コンバインドブレーキシステム(CBS))の装備を義務付けます。

【適用範囲】
○ 二輪自動車(エンデューロ二輪自動車及びトライアル二輪自動車※を除く。)及び第二種原動機付自転車
※オフロード競技用の二輪自動車。構造要件により規定。

【改正概要】
○ 二輪自動車には、「二輪車等の制動装置に係る協定規則(第 78 号)」の技術的要件に適合するアンチロックブレーキシステム(ABS) を備えなければならないこととします。
○ 第二種原動機付自転車には、「二輪車等の制動装置に係る協定規則(第78号)」の技術的要件に適合するアンチロックブレーキシステム(ABS)又はコンバインドブレーキシステム(CBS)を備えなければならないこととします。

(装置の定義)
アンチロックブレーキシステム(ABS):走行中の車両の制動に著しい支障を及ぼす車輪の回転運動の停止を有効に防止することができる装置。
コンバインドブレーキシステム(CBS):複数の車輪の制動装置を単一の操作装置によって作動させることができる装置。二輪車の先進制動システム

(注意事項)
アンチロックブレーキシステム(ABS)は、緊急時に強いブレーキを掛ける際や濡れて滑りやすくなっている路面でのブレーキの際等に車輪のロックを防止することで、直進時において、運転者が転倒を恐れずに最適なブレーキを掛けることができるシステムです。

また、コンバインドブレーキシステム(CBS)は、前後輪のブレーキを連動させることで、運転者が一方のブレーキのみを操作した場合等でも、前後輪に適切な制動力が得られるシステムです。

いずれのシステムも、運転を支援するための装置であり、ブレーキそのものの性能を向上させたり、あらゆる状況の下で有効に機能するものではなく、機能にも限界があるため、システムを過信することなく、運転者自身による安全運転を心掛ける必要があります。

【適用時期】
新型車:平成30年10月1日以降
継続生産車:平成33年10月1日以降

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