Photo Santi Diaz (SoloMoto)
4ストローク化の流れに、最後まで知らん顔を決め込んでいたガスガスが、ミラノショーでついに4ストロークマシンを発表した。まだプロトタイプというからこれから変更もあるかもしれないけど、開発方針が180度変わっちゃうこともないだろう。
登場したガスガス4ストロークマシンは、なんとサイドバルブだった。サイドバルブってのは、その名の通りバルブがシリンダーの横についてるからこういう名前なんだが、いまどき、ライトバンだってDOHCエンジンを積んでいるから、サイドバルブエンジンの登場は、ちょっとびっくりだ。
4ストロークエンジンの歴史を思いきりどんぶりで振り返ると、最初にサイドバルブエンジンあり。しかし燃料室形状などに制約が多いので、バルブをピストンと向きあうように配置したオーバーヘッドバルブエンジンが高性能を絞り出す切り札となった。これを略してOHV。その時代はチェーンの信頼性があやしかったので、クランクのそばに配置したカムシャフトとバルブの連結には、プッシュロッドが使われた。今ではプッシュロッドを使ったエンジンのことをなんとなくOHVというけど、本来はバルブがてっぺんにあるエンジンのことを意味するわけだ。昔のBMWとか、ぼくが持っているトライアンフ・タイガーカブはこのエンジン形式です。
しばらくして、重たい金属の棒をしこしこ動かしているのがおっくうになった。往復運動は両端で折り返すときに慣性が発生する。プッシュロッドをやめて、カムシャフトもシリンダヘッドのてっぺんに持ってきた。オーバーヘッドカムシャフト。略してOHC。バイアルスもRTL250Sも250Fも、スコルパ125Fも、みんなこのOHC形式だ。カムシャフトの駆動はチェーンを使っている。チェーンは一方向に動き続けるから、往復運動の慣性の心配はなくなった。
でも欲はつきない。1本のカムで吸気と排気の2本のバルブを動かすには、ロッカーアームというシーソーみたいなパーツがいる。こいつの慣性を排除したくて、OHCはDOHCになった。Dはダブル。よくダブルをWと略す人がいるけど、あれは何語なのかしらん? 英語圏の人にも通じるのかなぁ。
さて給排気それぞれのバルブに1本ずつカムシャフトを置いて、ロッカーアームを使わずにカムがバルブが直接押すシステムだ。昔は一部のレーシングエンジンにしか使われなかった高嶺の花のメカニズムだったが、自動車でもオートバイでも、いまどきはわりとふつうのメカになっている。トライアルでは、スコルパSY250Fが、DOHCの5バルブエンジンを積んでデビューした。
商用自動車にDOHCの必要があるのかどうかはさておき、トライアルマシンはどうだろう。スコルパ250Fがデビューするとき「トライアルは、とっくの昔の遅乗り競争の時代を卒業した。これからのトライアルはDOHCのパワーが必要になる」という説があった。事実、高い高いヒルクライムなどで、2ストローク勢やホンダ4ストロークが登りあえぐところをスコルパDOHCがあっさり登った衝撃のシーンは少なくなかった。
スコルパ250Fは、もともとのエンジンはエンデューロマシンのWR250Fだ。たいしてモンテッサのためにホンダが用意したのは、CRF250Rのエンジンを大改造したものだった。大改造というより新設計に近い。ユニカムと呼ばれる高回転高出力用のご自慢のシステムを放棄して、ふつうのOHCに作り替えた。ユニカムは、シリンダヘッドが大きくて、トライアルには不向きという判断でもある。DOHCをそのまま積んだスコルパは、ホンダのやり方とは対照的だった。
しかしトライアルマシンにとって、軽量コンパクトは至上命令だ。シェルコは吸入効率のことを考えたらやりたくないだろうに、キャブレターからシリンダヘッドまで、ぐにゃりと曲がったインシュレーターを用意した。大胆。キャブレターがシート高を高くするのをきらったためだ。
みんな、それぞれ独特の技術と想像力でトライアルマシンを仕上げてきたが、スコルパのDOHC以外は、いずれもOHC(SOHC=シングルオーバーヘッドカム)を採用した。軽量コンパクトと高回転高出力の両方を満たすには、OHCが順当な選択だったのだろう。
というところに、サイドバルブの登場だ。もっとも新しいサイドバルブエンジンがいつ登場したのか、なんてのはエンジン史探究家におたずねしないとわかんないが、戦後、小さなオートバイメーカーが乱立していた時代はともかく、ホンダがマン島TTで一旗揚げようという時代には、サイドバルブを積んだオートバイなんて、見向きもされない傾向になっていた。サイドバルブは、いかにも遅いという代名詞みたいになっちゃっていた。
トライアルマシンが4ストローク化されるにあたって「トライアルなんてたいしたパワーはいらないんだから、サイドバルブにでもして小さなエンジンを作ったらいいのができるんじゃないのかなぁ」なんて冗談をいっていた覚えがありますが、手前の場合はまったく技術的根拠がない酔っぱらいの戯言です。しかしそんな戯言をいっている間に、スペインの技術者は、おおまじめにサイドバルブエンジンを開発していたのだった。しかもこのサイドバルブときたらフューエルインジェクション装備である。新しい技術と古来の技術の融合という点でも、おもしろい。
はたしてどんな性能が発揮されるのだろう。どんなトライアルができるんだろう。元祖インジェクションのホンダエンジンや、DOHCのヤマハエンジンとはどんな戦いを演じるんだろう。
ともあれこれで、現存するすべてのメーカーから世界選手権に参戦するための4ストロークエンジンが出そろった。2ストローク時代にはどれも同じようなスペックだったけど、4ストロークは見事にさまざまなスペックが並んだ。それでも最終的にトライアルの成績を左右するのはライダーのテクニックなんだろうけど、しばらくはマシンを(エンジンを)眺めているだけでも楽しい日々が続きそうだ。
メーカー | 車名 | バルブ装置 | バルブ数 | 冷却 | 発表年 |
---|---|---|---|---|---|
スコルパ | 125F | SOHC | 2 | 空冷 | 2004 |
モンテッサ | Cota4RT | SOHC | 4 | 水冷 | 2004 |
シェルコ | 3.2 4T | SOHC | 4 | 水冷 | 2004 |
スコルパ | 250F | DOHC | 5 | 水冷 | 2005 |
ベータ | 4T | SOHC | 4 | 水冷 | 2007 |
ガスガス | 4T | SV | 2 | 水冷 | 2007 |
サイドバルブエンジンは他のバルブ形式に比べて燃焼室の形状にも問題があり、通常は半円球や釣鐘状が多いのですが、横に広いヘッドとなるため、燃焼の伝播時間を要し圧縮比も低いため回転数が上がらないということがあります。
いくら低回転を使うトライアルといはいえ、世界選手権などではフルスロットルで挑むセクションが多数あるのを考えると果たして大丈夫なのだろうか、と疑問が残ります。インジェクションを採用しても、回転が上がるということは無いでしょう。
もちろんメーカーはテスト、実践で十分に戦闘力を証明してから市販するのでしょうから杞憂なのかもしれませんが、もしこれでチャンピオンを獲得したら大革命となりますね。
そうそう。サイドバルブでいいわけがないじゃんとみんな思ったと思うし、今でも思ってると思います。
でもさ、モンテッサ(ホンダ)が4ストロークを出したとき、4ストロークでいまさらトライアルができるわけないじゃんと、けっこういろんな人が言ってたんですよ。技術革新ってのは、そういうもんじゃないかなと思うと、楽しくなります。外野としては。
ぼくがガスガスの株主だったり契約ライダーだったりすると、楽しいだけじゃすみませんけど。
まさかSVマシンを製作するとは?こんな発想はメイドインジャパンでは考えられませんね。単一民族の最大の欠点ともいえる。たしか日本最後のSVバイクといえば1958.9年製の「クルーザー250」?では。SVエンジンの特性はOHVと比べ、低回転からなめらかなトルクの発生をすることです。しかし瞬発力や高速回転は苦手とすることかな。でも、これは古の時代の常識といえますね。現在のエンジン技術でもって、これらの課題をクリヤーしたのでしょう。どんな仕上がりか今から楽しみ。でも排気量は最低350ccはあるでしょうね。エンジンはコンパクト・低重心、冷却効率の悪さを水冷式を採用したハイテクマシン。OHVハイカムシャフトタイプより、さらに進んだ発想に脱帽!!。若かりしころ「ホープスター」三菱メイキ(汎用エンジン)150ccのSVに乗っていたミックより。
サイドバルブですけど、最大10500回転というのを
どこかのGASGASサイトで見かけましたがガセなんでしょうか?
なぜガセだと?
(10500ってのは、そんな高回転なのかな?)
サイドバルブって、ウチにある発電機のロビンエンジンみたいですネ。やったー最新型じゃん!
フツーに考えたら、サイドバルブエンジンでは300cc・3500rpm・10psでしょうかネ?私らみたい素人トライアルには丁度良い性能カモ?世界選手権は走れるんでしょうか?
確にサイドバルブだとヘッドは真っ平でコンパクトになりますよネ。水冷・EFIでどこまでの性能になるのか?サイドバルブだから2バルブに限らない訳ですし?
少々興味ありです。
燃焼室の全周にバルブをくっつけて、単気筒30バルブなんてのもつくれるかもしれない。カムとかロッカーアームがどうのたうちまわるのかは、考えないことにします。
このアイデアは、ぜひチスパさんに使ってほしい。