トニー・ボウが、18回目のトライアルGP(アウトドア世界選手権トライアル)チャンピオンになった。2024年トライアルGPシーズン、残り1大会2戦を残して、8月25日開催フランスでのタイトル獲得だった。
2024年シーズンは、ストップルールに戻っての初めてのシーズンとなった。ストップルールとなると、体力的に勝る若手ライダーが出てくる可能性は大きかった。ボウはストップルールには賛成だったが、それは自身が得意なルールを選んだわけではなく、勝っても負けても、納得のいく戦いがしたかったからだ。もちろんストップルールになっても負ける予定などあったわけもないボウだったが、外野が思うよりも、本人ははるかに勝利への道が困難に向かっていくことを自覚していたはずだった。
しかし開幕戦の日本で、最大のライバルとなるはずだったハイメ・ブストが自滅した。マシントラブルでほとんど最下位という結果は、その時点でブストのシーズンが終了したことを意味した。こうなれば、ボウの連覇はほぼ確約されたも同然だが、それは油断・慢心というものだ。ブストが開幕戦でつまずき、その後も調子を戻せないまま低迷している間に、ボウはしっかり5連勝してリードを築いた。この容赦ない勝利への執念が、卓越したテクニック以上に、ボウの勝利を支えている。
●2024年トライアルGP、トニー・ボウの戦いの軌跡
大会 | R | 場所 | トニー・ボウのスコア | 2位(優勝)の選手のスコア | 点差 | ポイント差(累積) | ポイント差 | ||||||||||
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P | 1ラップ | 2ラップ | 減点計 | ライダー | 1ラップ | 2ラップ | 減点計 | ||||||||||
減点 | タイム | 減点 | タイム | 減点 | タイム | 減点 | タイム | ||||||||||
1 | 1 | 日本 | 1 | 12 | 1 | 1 | 0 | 14 | マルセリ | 18 | 4 | 16 | 0 | 38 | 24 | 3 | 3 |
2 | 日本 | 1 | 10 | 0 | 9 | 0 | 19 | ラガ | 13 | 1 | 11 | 0 | 25 | 6 | 8 | 5 | |
2 | 3 | アンドラ | 1 | 11 | 1 | 11 | 0 | 23 | マルセリ | 33 | 2 | 23 | 0 | 58 | 35 | 11 | 3 |
4 | アンドラ | 1 | 17 | 1 | 0 | 0 | 18 | ブスト | 28 | 2 | 8 | 0 | 38 | 20 | 16 | 5 | |
3 | 5 | イタリア | 1 | 22 | 0 | 2 | 0 | 24 | グラタローラ | 31 | 0 | 19 | 0 | 50 | 26 | 21 | 5 |
6 | イタリア | 2 | 22 | 0 | 21 | 0 | 43 | (ブスト) | 25 | 0 | 14 | 0 | 39 | -4 | 27 | 6 | |
4 | 7 | ドイツ | 1 | 7 | 0 | 5 | 0 | 12 | ブスト | 14 | 0 | 5 | 0 | 19 | 7 | 34 | 7 |
8 | ドイツ | 1 | 9 | 0 | 5 | 0 | 14 | ブスト | 11 | 0 | 14 | 0 | 25 | 11 | 39 | 5 | |
5 | 9 | ベルギー | 1 | 20 | 1 | 18 | 0 | 39 | マルセリ | 31 | 2 | 17 | 0 | 50 | 11 | 42 | 3 |
6 | 10 | フランス | 1 | 6 | 1 | 7 | 1 | 15 | ブスト | 20 | 1 | 2 | 0 | 23 | 8 | 47 | 5 |
7 | 11 | スペイン | |||||||||||||||
12 | スペイン |
イタリアの2日目に、ボウは2024年初めての敗北を喫した。勝ったのはブスト。4点差の敗北だった。しかしその間にも、ボウはランキング2位とのポイント差を確実に広げていった。実は今シーズン、ボウのチャンピオンを阻むべきランキング2位は、開幕戦以来、ずっとチームメイトのマルセリが担ってきた。マルセリがランキングのトップ争いをするのは今シーズンが初めて。ブストとラガ、ふたりのビッグライダーを相手に、初めてのランキング2位を目指していて、まだ打倒ボウは視界に入っていない。
フランス大会終了時点で、ボウがマルセリに対して築いたリードは47ポイント。これまでボウがランキング争いで最も圧勝したのは2012年で、最終戦時点で63ポイントを築いていた。最多勝利は2015年の13勝だが、この年は年間18戦あって、勝率は7割2分。最終的に、ランキング2位とのポイント差が最も開いたのは2012年の63ポイントだが、昨シーズン51ポイント差がその次点で、最も僅差だったのは2013年の10ポイント、2009年の12ポイントとなっている。ボウは2019年に全勝優勝していが、このシーズンは全8戦で、タイトル決定も最終戦まで持ち越しとなった。ここまでボウのタイトルは18回、うち7回が最終戦を待たずにタイトルが決まったシーズンで、11回は最終戦でタイトルが決まっている。最も勝率が低かったのは2013年の5割4分。ボウとて勝率5割台のシーズンが3度あった。いつもいつもボウが圧勝しているわけではない。
●トニー・ボウ18回のトライアルGPタイトルの軌跡
年 | 全ラウンド数 | 勝ち数 | 勝率 | タイトル獲得 | ランキング2位 | ライバル マシン | ポイント差 | 最終ポイント | ポイント差 | 2位 | 3位 | 4位 | それ以下 |
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2007 | 11 | 9 | 0.82 | イギリス | アダム・ラガ | ガスガス | 20 | 214 | 23 | 2 | 0 | 0 | 0 |
2008 | 12 | 7 | 0.58 | スペイン(最終戦) | アダム・ラガ | ガスガス | 17 | 225 | 17 | 5 | 0 | 0 | 0 |
2009 | 11 | 7 | 0.64 | フランス(最終戦) | アダム・ラガ | ガスガス | 12 | 200 | 12 | 1 | 2 | 1 | 0 |
2010 | 11 | 7 | 0.64 | イタリア | アダム・ラガ | ガスガス | 33 | 200 | 28 | 1 | 2 | 1 | 0 |
2011 | 11 | 7 | 0.64 | フランス(最終戦) | アダム・ラガ | ガスガス | 13 | 204 | 13 | 2 | 2 | 0 | 0 |
2012 | 13 | 11 | 0.85 | イタリア | アダム・ラガ | ガスガス | 55 | 250 | 63 | 1 | 0 | 1 | 0 |
2013 | 13 | 7 | 0.54 | フランス(最終戦) | アダム・ラガ | ガスガス | 10 | 238 | 10 | 4 | 2 | 0 | 0 |
2014 | 12 | 7 | 0.58 | スペイン(最終戦) | アダム・ラガ | ガスガス | 15 | 225 | 15 | 5 | 0 | 0 | 0 |
2015 | 18 | 13 | 0.72 | ポルトガル | アダム・ラガ | ガスガス | 40 | 345 | 34 | 5 | 0 | 0 | 0 |
2016 | 15 | 12 | 0.8 | イタリア | アダム・ラガ | TRRS | 34 | 289 | 37 | 2 | 1 | 0 | 0 |
2017 | 10 | 8 | 0.8 | イタリア(最終戦) | アダム・ラガ | TRRS | 28 | 192 | 28 | 1 | 1 | 0 | 0 |
2018 | 9 | 7 | 0.78 | イタリア(最終戦) | アダム・ラガ | TRRS | 41 | 170 | 41 | 1 | 0 | 1 | 0 |
2019 | 8 | 8 | 1.00 | スペイン(最終戦) | アダム・ラガ | TRRS | 26 | 160 | 26 | 0 | 0 | 0 | 0 |
2020 | 8 | 6 | 0.75 | イタリア(最終戦) | アダム・ラガ | TRRS | 31 | 152 | 31 | 1 | 1 | 0 | 0 |
2021 | 10 | 7 | 0.7 | ポルトガル(最終戦) | アダム・ラガ | TRRS | 22 | 172 | 22 | 1 | 1 | 0 | 0 |
2022 | 10 | 7 | 0.70 | イタリア | ハイメ・ブスト | ヴェルティゴ | 44 | 191 | 51 | 2 | 0 | 0 | 0 |
2023 | 14 | 11 | 0.786 | フランス(最終戦) | ハイメ・ブスト | ガスガス | 35 | 271 | 35 | 3 | 0 | 0 | 0 |
2024 | 12 | 9 | 0.75 | フランス | ガブリエル・マルセリ | モンテッサ | 47 | 1 |
現在(最終戦前)のところ、ボウとマルセリのポイント差は47ポイント。去年に続く50ポイント差以上の圧勝となるだろうか。ノーストップルールになっても、ボウの輝きに陰りは見えない。それどころか、ストップでも強かったボウは、ノーストップでさらに強くなっている印象だ。
2024年トライアルGPは最終戦スペインを残しているが、ボウの次なる目標は、36個目の世界タイトルとなる、2024年Xトライアルのタイトル獲得となる。
Photos:Pep Segales