雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

ディープ・インパクト

 TDN(トライアル・デ・ナシオン)が終わって、月曜日の夜にパリへ移動し、火曜日の午前中の飛行機でロンドンへ、トランジットで成田へ向かう。
 ふつう、日本人は、日本行きの飛行機乗り場に来ると、いきなり増える。ヨーロッパからヨーロッパへ移動する便では、なぜか日本人はとっても少ない。ところがあなた、パリからロンドン行きの飛行機は、そらもう、日本人だらけじゃないか。びっくり。


 おたずねしてみたところ、どうやらディープインパクトを見に行った人が多いらしい。みんな他人なのに、ディープインパクトつながりでみんな仲がよさそうなのだ。一応解説しておくと(世の中の大半の人は知ってるだろうけど、杉谷とかは知らないかもしれないから)、ディープインパクトってのは日本の競馬馬で、こいつがフランスの凱旋門杯に出場した。本命中の本命だったんだけど、結果は惜しくも3位だった。で、ディープインパクトの応援に、日本人がこぞって海を渡ったというわけだ。
 パリ・ロンドンでは、横一列6人のうち、4人が競馬帰りだった。ぼくと、もうひとり、ドイツから帰国のビジネスマン風の二人が、お馬さんとは関係ない客だった。そのビジネスマンは、ロンドン行きの飛行機が日本人だらけなのを見ておたおたとし「な、なにかあったんですか?」と聞いてきた。ぼくにも日本人が多いのはなぞだったんだけど、その質問を聞きつけた窓際のご婦人が得意そうに解説してくれた。実はぼくも、凱旋門杯に日本人が終結して、無料のパンフレットをとりあう大騒ぎをしているというニュースを読んではいたんだけど、ご婦人の解説を聞いて初めて、ディープインパクトと機内の状況がつながった。
 そういわれてみれば、日本人が大い割にはツアー客って感じじゃなくて、リュックかかえた若者みたいなのも多かった。こういう旅慣れた感じの日本人は、一便に多くて数人程度だもんだけど、今回はみんながみんなこんな感じだから、そりゃドイツ帰りのビジネスマンもびっくりだ。
 ロンドンから成田へのBA007便(カムチャッカで撃墜されたKAL機が確か007便だったけど、まるで関係ない)も、やっぱりディープインパクトファンばっかりだった。隣のお兄さんは、レース展開や騎手(武豊だったらしい)のこと、勝てるチャンスも大いにあったこと、日本人がみんなディープインパクトを買ったので大本命となり、しかもフランスの本命馬も低迷したため、けっこうな高配当になったこと、などを教えてくれた。そのお兄さんはフランスは初めてだそうだけど、スペインには何度か行ったことがあるという。ぼくがトライアル帰りだというところからバルセロナの話になった。スペイン、それもバルセロナがお気に入りなのは、その街の建築ゆえらしい。
 とまぁ、飛行機の中はこんな感じで日本人だらけだったけど、とても乗客の半分が日本人だなんて思えなかった。あんまり日本人の悪口を書くのも気分がいいもんじゃないけど、ヨーロッパの秩序を乱すのは、国籍が日本だからではなくて、日本のツアーだからなんだなとあらためて思いました。みなさん、ツアーで旅をするのはやめましょう。結局外国のことがちっともわかんなくてつまんないからね。

 しかしまぁ、ディープインパクトがどれほどかわいい馬かは知らないけど、これだけオッカケが日本からきてくれるなんて、なんと幸せな馬だろう。TDNの会場では「なんで今年の日本チームは3人なんだ?」「なんで女性陣は世界選手権に1戦しかでないんだ?」なんてことをよく聞かれる。顔なじみのジャーナリストはまずぼくに聞いてくる。「ヨーロッパまで来るのは高いし、お休みをとるのもむずかしいしね」。でも、そういう答えじゃ納得できないらしくて、藤波にも聞いている。答えはいっしょだ。だってそれが真実なんだから。
 でも飛行機の中の様子を見ていたら、日本人は日本の競馬馬の応援に、こんなにたくさんの人がフランスまでやってくる国民性を持っているわけだ。お金がないなんて信じられないし、休みがとれないなんてのも、信じられない。ディープインパクトが日本チームの一員になってTDNを走るとなったら、きっとTDNの会場は日本人だらけになるにちがいない。
 このギャップは、いかなりや。今回は、愛知の松下一家が応援に来てくれた。お母さんはプレスゼッケンをつけて写真を撮ってたけど、TDNに日本からの応援がくるなんて、5年ぶりくらいじゃないだろうか。ほかには、今はドイツに赴任しているMFJ東京の高橋延治さん。日本の応援団は、たったこれだけ。
 今までTDNにくるたびに、海の向こうのイギリスからやってくる応援団の数の多さをうらやましくてしょうがなかったんだけど、今回はイギリスよりも、ディープインパクトがうらやましくてしかたがなかった。
 写真は、ベルギーの空港のチョコレート売り場と、信号待ちの車内から見たフランスのレンヌの街の中。
 どちらも意味もなく並べてみました。