藤波貴久が、全日本トライアルに出場する。
ここへきて、全日本選手権も急速に電動化の波が押しよせている。IAS初勝利を飾ったと思えば、表彰台独占も果たした。IAでもすでに勝利を飾っていて、ひょっとしてこれから先、全日本で勝利するには電動マシンでなければいけないのかと思わせる勢いでもある。
そんな中、突然とも言えるビッグニュースが飛び込んできた。ホンダが、いよいよ電動トライアルマシンを投入し、テスト参戦として全日本選手権でデビューを飾るという。そしてそのライダーが、レプソルHondaチームの監督を務める、元世界チャンピオンにして5回の全日本チャンピオン経験者、藤波貴久だという。
ホンダから発表されたリリースでは、第6戦和歌山・湯浅大会より参戦、となっている。「湯浅大会“に”参戦」ではないことで、SUGO大会への参戦も含んだ発表となっている。さらにランキング10位までの選手が出場できる最終戦のシティ・トライアルも、出場の可能性はある(賞典外での参加の可能性もあるし、湯浅とSUGOの2戦で連続2位に入ればランキングトップ10には入れてしまえそうだ。
藤波貴久の全日本参戦は、現役復帰ではなく、テストライダーとしての限定参戦であるという。藤波は監督業についた後も、チームのライダーのマシンのセットアップなど、テストライダーとしての仕事も続けていた。今回はそういった仕事の延長として、全日本選手権に参戦するということになる。
藤波が最後に全日本に参戦したのは2003年のSUGOだった。2002年から全日本へのフル参戦をストップし、世界選手権に焦点を移したので、2002年、2003年はスポット参戦となっていた。つまり21年ぶりの全日本参戦となるわけだ。
アシスタントは、現在はトニー・ボウのマインダーを務めているカルロス・バルネダ。ご存知、2021年までは長く藤波のマインダーを務めていた好漢。藤波とチームを組む前はジェロニ・ファハルドと組み、その前のライダーは野崎史高で、カルロスは日本人ライダーと組むことでマインダーデビューをし、チャンピオンマインダーとなっている。カルロスはこれが全日本デビューとなる。
さて今回デビューとなるEVのRTL ELECTRICだが、フレームの基本骨格は現状のRTLと酷似しているように見える。マシンの詳細は明らかにされていないが、トランスミッションが装備されているようで、従来エンジンと同じような位置にクラッチが装備されているように見える。EMやヤマハはエンジンマシンのクランクケースにあたる位置にモーターを配しているが、RTL-Eはクラッチの上側、エンジンで言えばシリンダーが位置するところにモーターを配している。そしてバッテリーは、モーターまわりの前側、ふつうならラジエターがあるあたりに縦長におさめられている。バッテリーとモーター、それぞれの重さは推し量ることもできないが、大きな重量物であるバッテリーを重心の低い位置に置きたかったのかもしれない。
藤波は監督業になってからトレーニング時間も減っていて、体重もずいぶん増えたということだったが、今回の参戦を機に激しいトレーニングを再開。電動マシンのデビューという興味はもちろんだが、チャンピオン藤波の走りを目の当たりにできるという、一粒で二度も三度もおいしい観戦になるにちがいない。
復活といえば、生産をやめてしまい、着用ライダーも激減したショウエイヘルメットが、藤波によって全日本のIASの舞台に出てくる。藤波はショウエイのトライアル撤退のあとも、他メーカーのヘルメットを使用することなく、火の玉ボーイをあしらったフジガスヘルメットを愛用する。
ゼッケンは27番。現在最も大きな数字をゼッケンにしている浦山瑞希が20番だから、21番でもよかったのではないかと思われるが、1994年、藤波がB級ランキング2位で国際A級に昇格した際に与えられたのが27番だった。
復活と未来と。藤波が全日本のチャンピオン争いに与える影響も含めて、残る全日本選手権シリーズは、絶対に見逃せない戦いになる。
■ホンダからのプレスリリース
Team HRCが電動トライアルバイク「RTL ELECTRIC」で参戦
~開発ライダーとして元トライアル世界チャンピオンの藤波貴久を起用~
株式会社ホンダ・レーシング(以下、HRC)は、電動トライアルバイク「RTL ELECTRIC(アールティーエル・エレクトリック)」で、HRCが運営するワークスチーム※1「Team HRC(チーム・エイチアールシー)」として、10月13日に開催される「2024 MFJ※2全日本トライアル選手権シリーズ 第6戦 和歌山・湯浅大会」より国際A級スーパー(IAS)クラスに参戦します。
※1 ワークスチームとは、マシンを製造しているメーカーが運営しているチーム。HondaではHRCが運営するチーム
※2 MFJとは、Motorcycle Federation of Japan(一般財団法人 日本モーターサイクルスポーツ協会)の略称
RTL ELECTRICは、FIM※3トライアル世界選手権の参戦車両であり、トニー・ボウ選手の18連覇に貢献しているワークスマシン「Montesa COTA 4RT(モンテッサ・コタ・フォーアールティ)」で培った技術やノウハウに基づき新規に開発された、Honda初の競技用電動トライアルバイクです。また、今シーズンから電動オフロードバイクの世界戦「FIM E-Xplorer World Cup」に参戦している「CR ELECTRIC PROTO(シーアール・エレクトリック・プロト)」で、新たに得た電動領域(モーターやバッテリー等)の知見等も、RTL ELECTRICの開発に活かされています。
RTL ELECTRIC開発ライダーには、2004年のFIMトライアル世界選手権チャンピオンで、現在は「Repsol Honda Team(レプソル・ホンダ・チーム)」の監督を務める藤波貴久(三重県 44歳)を起用し、同大会にライダーとして参戦します。
Hondaは、2050年にHondaの関わる全ての製品と企業活動を通じて、また、2040年代には全ての二輪製品でのカーボンニュートラルを実現することを目指し、今後の環境戦略の主軸として二輪車の電動化に取り組んでいます。Hondaは多様化するお客様のニーズに答えるため、モトクロスに加え、トライアルでも電動化に挑戦することで、さらに技術の進化を図っていきます。
※3 FIMとは、Fédération Internationale de Motocyclisme(国際モーターサイクリズム連盟)の略称
●RTL ELECTRIC開発ライダー 藤波貴久
「Hondaのカーボンニュートラルへの取り組みに対し、トライアルで関わることができ、大変うれしく思っています。電動のトライアルバイクには無限の可能性があり、ライダーとしてのこれまでの経験を活かして、開発チームとともにより良いマシンに仕上げていきたいと思っています。今回は現役復帰ではないので、開発ライダーとしての限定ですが、久しぶりに日本のファンの皆様の前で走れることが、今からとても楽しみです」
●株式会社ホンダ・レーシング(HRC)代表取締役社長 渡辺康治
「Hondaは今年、電動オフロードバイクレースの新しいカテゴリーであるFIM E-Xplorer World Cupの参戦を開始しましたが、この度全日本トライアル選手権にも、RTL ELECTRICで参戦することを決めました。電動二輪車で参戦するカテゴリーを増やしていくことで、技術を実戦の場で鍛え、ノウハウ・知見の蓄積、人材の育成をさらに加速させていきます。最後になりましたが、このプロジェクトに全面的に協力してくれた藤波貴久さんには、心から感謝いたします」
●参戦体制
参戦チーム名: Team HRC
参戦車両名: RTL ELECTRIC
参戦ライダー: 藤波貴久(ふじなみ・たかひさ)
アシスタント: Carles Barneda Romans※4(カルロス・バルネダ・ロマンス)
※4 現在はトニー・ボウ選手のマインダー(アシスタント)で、藤波貴久の選手時代には長く彼のマインダーを務めていた
●藤波貴久のプロフィール
生年月日: 1980年1月13日(44歳)
出身地: 日本(三重県)
主な略歴
1993年 MFJ全日本トライアル選手権 国際B級に13歳で参戦
1995年 MFJ全日本トライアル選手権 国際A級 チャンピオン
1998年 FIMトライアル世界選手権 4位、MFJ全日本トライアル選手権 IAS チャンピオン
1999年 FIMトライアル世界選手権 2位、MFJ全日本トライアル選手権 IAS チャンピオン
2000年 FIMトライアル世界選手権 2位、MFJ全日本トライアル選手権 IAS チャンピオン
2001年 FIMトライアル世界選手権 2位、MFJ全日本トライアル選手権 IAS チャンピオン
2004年 FIMトライアル世界選手権 チャンピオン
2021年 26年間参戦してきたFIMトライアル世界選手権を選手として引退
FIMトライアル世界選手権 出場数:355戦、優勝回数:34勝
2022年 ワークスチーム「Repsol Honda Team」の監督に就任