大きな災害が相次いでいます。災害支援にトライアルは最適。しっかり腕を磨きましょう。

2025年のトライアル規則

ということで、競技規則書が公開されているが、2025年のトライアル規則は大きな変更があった。

今回の規則改定の一番大きなところは、まずバックができるようにしたことだ。2024年のトライアルGPを観戦した人ならご承知だと思うけど、トライアルGPは2024年から10年続いたノーストップをやめて、バック可能なルールになった。それにならって、日本のトライアルルールもバックOKとした、ということだ。

2025MFJ競技規則

条文では、これまでの「バックは5点」が「足をついた状態でのバックは5点」になっている。ちょっとしたちがいに見えるけど、これは大きな変化だ。

バックOKになると、ループの解釈もめんどくさい。シティトライアルジャパンが全日本格式になった際、バックOKとするならとループもOKになった前例があった。一方トライアルGPでは、バックOKでループはNGとなっていて、それでほぼなんの問題もなく運用されている。

実はループの解釈は、2025年の規則書ができた時点(昨年末)では従来通り5点だったのだが、1月29日に出た文書で、ループに関するペナルティは削除されることになった。これがまた大きな変更になった。

まず、なぜヨーロッパと日本でルールの解釈が異なるのか。もともとループとは、輪を描くラインどりをすることで、これをヨーロッパの規則書では「完全なループをしたら5点」と表記している。わかるかな、Ωみたいな軌跡は、輪を描いたみたいに見えるけどループではない。だけどδとかℓみたいな軌跡だったら5点となる。これがループの解釈だった。FIMの条文を見ると(日本語訳だけど)「完全なループ後、モーターサイクルのホイールが自分の別のホイールの軌跡と交差した」となる。

このルール解釈について、日本では「完全なループとはなんだ?」という議論が出てきた。それに対して”わかりやすいように”付け加えたのが「軌跡を前後輪で横切った」という規則文だった。この規則文が定着すると、ループをしたかどうかはさておいて、軌跡を前後輪が踏んだかどうかが日本のループとなった。マジメな日本人には、それがわかりやすかったんだろう。ところがそうなると、前進したラインを踏みながらバックしてきたら、ホイールベース分下がってきたところで軌跡を前後輪が踏んだことになって、5点になるではないか、というのが、シティトライアルの際の問題提起だった。今回もその矛盾を解決できず、その結果、やっぱりバックOKならループもOKにするしかない、ということになったようだ(繰り返しになるけど、トライアルGPには軌跡を前後輪が踏むという条文はなく、ループしなければ5点ではない)。

たとえば右のIBライン。直登するのが厳しかったら、緑のゲートを越えてすぐUターンして戻ってきて、手前でぐるりと好きにターンして、右のゲートのない斜面を上がっていけばいい。他クラスのゲートに進入しなければ、ライン的になにをやってもご自由なのが2025年ルールの基本

ループのペナルティをとるには軌跡を記憶しておかなければいけない。これがオブザーバーの負担になるから、そこを見る必要がないのはオブザーバーにはずいぶん楽になっている。そのかわりというか、あのゲートは通ったっけ、通ってないけど、あぁ、ぐるっと回って通るのかと、別のむずかしい採点を強いられることになるのかもしれない。

ともあれバックできるようになった。ただしバックはOKだが、足をつきながらバックしたら5点だ。するするバックできるのは一部の達人だから、バックOKとはいえ、たいていのライダーはバックしたら5点になってしまうということかもしれない。昨年のトライアルGPを見ていると、足をついたバックは5点だから、ライダーは足をつくたびに(正しくは足をつく直前に)マシンの動きを止めて5点を回避していた。これも高等技術だけど、それを採点する側も、なかなかむずかしい瞬時の判断を要求される。採点で問題が出るとすれば、まずこのへんになるだろうか。

さて、バックOKに伴って改訂されたループOKだが、これはある意味、バックOKよりも影響が大きい。そしてループOKはこれまでのトライアルの概念を大きく変える。ライン取りはいつだってむずかしいが、ループOKになると軌跡が知恵の輪みたいになってくる可能性が大。おもしろいかどうかは人それぞれだと思うけど、今までのトライアルの概念とは大きく異なるのは確かだ。そして同時に、セクションづくりの概念も変わってくるだろう。これまでループができなかったから助走なしで岩を登らせたり、むずかしいオフキャンバーターンに苦しんでもらったりしていたセクションが、ぐるっとループすることで簡単に攻略できるようになってしまったりする。

2025競技規則【変更点】

ゲートマーカーを多用する、進行方向表示ゲート(黄色いゲートマーカー)を使うなどの対処方法は考えられるが、ここでさらにトライアル委員会が選んだのが、他ゲート進入禁止だった。これも1月29日づけの改訂で加えられた。これまで日本のトライアル規則では、自分のゲートを通るのは義務だが、自分のではないゲートは通るも通らないも自由だった。一方トライアルGPでは他ゲートへの進入が禁止されていた。日本も、この規則を踏襲したことになる。セクションの作り方次第だが、この規則で、上級ライダーがやさしいラインを通れてしまうジレンマをつぶせるし、セクションの中を自由自在にループされるのも制限することができる。

左側の走りやすそうなところにわざわざNBゲートを置くと、その他のクラスは全部右側の岩を越えていかなければいけなくなる。今までみたいにここはゲートがないからどこでもいいんだなと下見していると、簡単に5点になれる。

他ゲートの進入禁止規則は、下見の重要度をさらに上げることにもなりそうだ。下見はそもそも重要だけど、加えてどこにどんなゲートがあるか、自分のクラス以外のゲートもしっかり見ておかないと、あらぬ5点をもらうことになりかねない。オブザーバーも見るべきところが増えてきっとたいへんになる。ついでに観戦する側もこのルールは知っておかないと、なんであそこ通らないのかな? あれで5点なのかな? と悩むことになりそうだ。

2024年から(2025年1月1日時点ですでに)変更になっていた中には、エンスト5点がなくなった、がある。正しくはエンジン停止+前進していない+足やタイヤの車体が接地の3拍子揃って5点だったのだが、これがなくなった。トライアルGPでは2024年からこれで運用されているが、これは電動マシンはたびたびモーターが止まってるから、不公平である、という理由のようだ。ごもっとも。ごもっともではあるが、モーターは再始動の儀式なくそこから前進が可能だけど、エンジンはそれができないから、それがモーターの利点だ割り切っちゃってもいいような気がする。いや、これは個人の感想なので、結果として、エンジンが止まってもあわてることなく足をついて再始動すればいいということになる。トライ中に足ついてエンジンかけるのはちょっと見苦しい気がするのは、老害だからです。

老害的に見苦しいといえば、ループOK、バックOKによって、セクションの中をいくらでも(1セクション1分の制限時間が設定されていることもある)ぐるぐる走り回れる規則になった。セクションセッターは、他ゲートや黄ゲートを適所に配置して、ライダーが想定外にぐるぐる走るのを規制しようとするだろうが、セクションを作る方もこんなのは初めてだから、うまくいくかもしれないし、うまくいかないかもしれない。

ちょっとわかりにくい写真を撮ってしまったけど、左側がアウト。どうあがいてもループしなければ出口にたどりつかないという、新ルールの見本セクション。昔ながらのセクションセッターは、こうはならないように悩みながらセクション設定をするだろうが、ルール的には「できちゃう」ということだ。

バックとループ以外には、下見(セクション内に入っての)はスタートしてからに限る、と下見に関するルールも新たに設けられた。下見も競技のうちだから、スタート前に(セクションに入って)下見してはいかん、は理解できる。ただバックOKループOKのルールでは、進んだと思ったライダーがバックしてくるかもしれないし、向きを変えて帰ってくるかもしれない。今まで以上に、トライ中はセクションに立ち入れなくなりそうで、そうなるといつ下見をすりゃいいんだということにもなるかもしれない。このあたり、どんなふうに試合が進んでいくのかも、興味深い。

2025関東選手権開幕戦から 岩の陰に隠れているゲートの数々を全部くまなくチェックする必要があるから、下見も忙しくなるにちがいない。

その他、ゲートの進入とは、という定義も明文化されたようだ。セクションのインアウトはフロントホイールのアクスルシャフトで判断するが、黄色ゲートを含むゲートの進入は接地点で判断されるということだ。ただしこれは、今現在はまだ申し合わせということだから、今後また文書が出るのかもしれない。なんだか今年は、こんなふうに細切れで規則が修正されていくことになるのかもしれない。

バックOK、ループOKのトライアル。セクションの作り方によっては、今までと大差ないトライアルになるかもしれないし、まったく異次元のトライアルになるかもしれない。もともと、採点のわかりやすさ、がテーマだったはずなんだけど、はたしてその思いはとげられるのか、いろいろ今後も注視し続けなければいけないルール問題となっている。