
2025年のFIMルールが発表されて、これまでとはちょっと変わったレギュレーションが明らかになっている。
このレギュレーション変更、当のFIMやトライアルGPからはあんまり大々的に報じられてない。新しいシーズンに向けて新しい規則を発表するのは特にニュースでもトピックでもないということかもしれないけど、そんなわけで英語の規則書を読みながら新しい規則書をご紹介します。

●1セクションあたりのトライタイムが1分になった
まず大きいのは、セクショントライタイムが1分半から1分になった。世界選手権ではトライは1分半が定着していたのだが、とはいえこの10年間、ノーストップ時代にはトライ時間は無制限だったから(止まれないから、セクションに長くとどまろうと思ってもムリがある)、10年ぶりにやってみたら、1分半は長い、ということになったということだ。
セクションが長いか短いかは設定されたセクションとの兼ね合いもあるから、トライそのものについてはどうにでもなるものだと思われるけど、一人あたりが長くセクションにとどまれば、それだけ競技の進行はゆっくりになる。最近のライダーの悩みといえば持ち時間との戦いがある。精いっぱいトライしたくても、渋滞にはばまれて思うようなペースでセクションを進めなかったりする。それが1分になれば少しは進行がスムーズになるかもしれない。

こういう決定には、元ライダーとして、チームの監督として、藤波貴久の意見もまな板に乗っているはずだが、藤波自身は全日本を走って、1分は忙しい、あわただしいと感想を語っていた。それでも、競技進行をスムーズにするためにこのシステムを選んだ、と言うことだろう(1分半は長過ぎるが、1分は忙しいから、1分15秒がいいかなぁ、などと冗談めかしたコメントもあったが、開けてみたらやっぱり1分だった)。

●試合に先がけてスーパーテストがある?
新しいレギュレーションでは「スーパーテストは、競技の前に開催することができる」とある。これによってスタート順を決めることもあるというから、以前行われていた予選に相当すると思われる。あの予選システムは、コロナ禍になって自然消滅して今に至るが、いつかまたやりたいという思いもあったのだろう。エンターテインメントとしてはすばらしいシステムだったが、大会前日が半日から一日このイベントに費やされることなど、投資は小さくない。エンターテインメントとしては素晴らしいけど、2日制のイベントの場合は金曜日に開催されることになって、一般のお客さんが来にくいというネガもある。一度、イタリアで金曜日の夕方から夜にかけて予選が開催されたこともあったが、エンターテインメントとしてはこれが一番素晴らしかったと思える。でもそれから整備をするチーム側としては、かんべんしてくれよ、ということになるのだろう。

レギュレーションを読むと、このスーパーテストは「開催できる」とある。ということはやらなくてもいいということだ。これをやらない場合は、スタート順は従来通り、前回までの成績などで決めることになるという。どの大会でスーパーテストがあって、どこでないのか、日本はどうなのか、まだ発表はない。

●パワーセクションの開催
これはスーパーテストと反対に、競技終了後に開催できるとある。全日本選手権のSS(スペシャルセクション)みたいなものともいえるけど、全日本のSSは競技の最後に組まれている。パワーセクションは競技終了後、だ。競技は終了して順位も確定した後、このセクションが用意される場合があるということだ。
競技は終わっているから、これを走ることによって順位の変動はないが、ここでトップをとると、チャンピオンシップポイントで3ポイントもらえる、2位なら2ポイント、3位は1ポイント。1ポイント差でランキングが変わる可能性を考えたら、これに参加しないわけにはいかないだろう。ただし3位までしかポイントがないので、どうがんばっても3位にひっかからないとなれば、出てもお得なことはないかもしれない。

SSのようなエンターテインメント性のある催しはやりたいが、それで勝敗が動くについては反対意見が多かったということか。とはいえ、純粋なショーとしての開催では、試合後のお疲れのところ、参加してくれる選手もいない。じゃ、ランキングのポイントを少し差し上げましょう、という感じか。
●その他細かいこと
これまで、トライアルの1周はラップと称されていたが、これをレースと呼ぶことになったらしい。まずスタートしてレース1をおこなう。トライアルGPはこれまで1ラップを終えたら一定時間のインターバルを置くことになっているが、これを終えて次に出るのが、2ラップ目ではなくてレース2となる。言い方が変わっただけで内容的にはなんにも変わっていない感じだが、どんな意図があるのやら?
ライダー以外のマインダー、メカニック、マネージャーの仕事について制限を加えるべきという意向は、ひきつづき検討されているみたいだけど(安全のためにマインダーは不可欠という意見もあれば、マインダー必須だと参戦費用が膨れるので、参加人数が増えないというジレンマがある。TRRSの親分にして7回の世界チャンピオンのジョルディ・タレスは、マインダー廃止に賛成すると語っていた)、今回の規則で変更があったのは、アシスタントはエンクロージャーエリアといわれるお客さんが入れないエリアで待機することができなくなったこと。アシスタントの待機場所はセクション入口か出口付近に用意されて、ライダーのインと一緒にセクションに入ることを許されるが、それはライダーがセクションの入口を通過してからに限るとなっている。マネージャーは待機場から出ることができない。
エンクロージャーに多くの人がひしめくのは安全上の問題もあれば、逆になにかあった時にすぐに手を出してもらえる(アクシデントの際にはライバルチームでも助けあうのが常だから)メリットもあるが、後方にいるお客さんにはじゃまな存在だから、これを減らしたいという意向もありそうだ。取材陣もこのエリアにいれてもらっているが、お客さんのじゃまにならないように、とか気にしていておいしいシーンを見逃すこともあったりして、お行儀のいいトライアル大会を開催・運営するにはいろいろ配慮が必要だなぁと思ったりしている。
今、ニュースソースとして最も新しいTodo-Trial(全部トライアル)の記事では、どの規則変更も懐疑的に伝えられている。パワーセクションは全日本のまねっこで、こういうのは伝統的なトライアルとはちがうんじゃないの? みたいなニュアンスも見えるんだけど、守るべきところと変わらなければいけないことはあるから、今はまず、新しいシステムが楽しみだ、ということにしておこう。この記事中のかっこいいカットはトライアルGPイギリス大会のFBにあったものを拝借しました。トライアルGPのイギリス大会は久々なので、イギリスは盛り上がっている様子。
https://trialgp.com/2025-noticeboard/
レギュレーションはトライアルGPのサイトから誰でも読むことができる(フランス語と英語だけど、いまどき、機械翻訳にかけたらたいていの意味は通じる)。この他にも変更点はあるし、変更は太字になっていて分かりやすくなっている(日本の規則書とおんなじだ)。興味のある人はどうぞ読んでみてください。