大きな災害が相次いでいます。災害支援にトライアルは最適。しっかり腕を磨きましょう。

世界をとれ、黒山陣


黒山陣が、昨年に続いて世界選手権に参戦する。16歳に満たないということもあって、参戦するのはトライアル3(125cc以下)。去年はお試しで出場した一面があったが、今年はチャンピオンを取りに行くという。そんな黒山に、雨の東京で話を聞いた。

実は黒山、YMFSスポーツチャレンジ助成の助成対象となって、その助成発表の式に出席。それが終わるのを待ちかまえて、話を聞くことになった。中学の卒業式を終えたばかりの黒山だが、この日は制服着用を求められていて、中学生然とした装いで現れた。


自「ヤマハ発動機が若い人を対象にスポーツ振興をしようという活動ですね。陣くんはシェルコのライダーだけど、ヤマハが支援してくれるの?」
陣「いいんです。モータースポーツはヤマハやシェルコがありますけど、ラグビーとか体操とか、ヤマハと関係ないジャンルもありますし。もともとヤマハの関係者が、発動機の活動なのにモータースポーツの支援対象者がいないからと、声をかけてくれたんです」

自「受け入れる側のヤマハの人には、陣くんのことを知っている人はいますか?」
陣「ライダー黒山陣を知ってる人は、二人だったかな? おじさんが勝つ勝たないの頃にトライアルを担当されていた方がいらっしゃいました。ぼくはまだただのクソがきでしたから覚えていませんけど、おー、黒山くんか、トライアルやってたんや、と言われました。健一おじさんが優勝したときにいっしょに記念写真を撮っているような人ですから、ぼくのクソガキ時代を知ってらっしゃるんですが、その後トライアルを離れていらして、ぼくがトライアルをやっていたのはご存知なかったみたいです」

自「式では、どんな発表をしたの?」
陣「この1年の成果発表です。デ・ナシオンや世界選手権について、自分がやってきたこととその結果についての発表をしました」

自「その報告に対して、ほめられたりつっこまれたり、するんですか?」
陣「そうです。先生方がつっこみを入れてくる。体力を向上させたということだけど、具体的にはどんなトレーニングをしたの? と、ひとりだけすごいダメ出しをする先生がいらっしゃいました。この助成は2年目なんですが、1年目の時はいろいろ指摘を受けました。世界選手権が試合を2日間やるんだったら、トレーニングの段階では2日間じゃなくて1週間以上試合を続けるくらいに、精神的にも体力的にも負担がかかるから、そういうふうにトレーニングは見直しほうがいい、というようなことを言われました。なるほど、そうか、そうだろうなと思いましたが、今年はなにも言われなかったから、よかったなぁ、というところです」

自「さて、今年の陣くんの参戦についてですが、世界に出ていくということで、全日本とのバランスはどうなるのでしょう?」
陣「世界選手権がメインです。世界選手権が終わってから全日本にも出ます。スケジュールがそうなっているのもそうなんですが、本人のウェイトというか打ち込む姿勢もそうです。優先順位は世界選手権が第一です」

2025世界選手権第1戦スペイン大会の黒山陣(Photo:Pep SEGALES)

自「あらためて、世界選手権に参戦する経緯については……」
陣「去年、2戦の参戦が終わって、シェルコのアルベルトさんと話をして、来年はどうするんだ? という話になって、世界選手権走りたいと気持ちを伝えました。去年の世界選手権では悔しい思いをして、6月に日本に帰ってきて、デ・ナシオンの時にその話が出たんです。そこでぼくの腹は決まりました」

自「悔しい思いというのは?」
陣「去年、2大会4戦を走りました。参戦の姿勢としては、試しに走ってみよう、という感じだったんです。125ccだから、そんなに敵はいないでしょ、と思っていました。それで考えられる準備を完璧にやって、それで行ってみたら、ぼくが思っているよりもっと125を操っている選手がいて、他の皆さんも本気度が全日本とはちがった。そういうところにすごい魅力を感じたんですね。絶対、ここでまた走りたいという気持ちになって、いざスタートしたんですが、勝ってやると意気込んだ結果がぜんぜんダメでした。それからは、世界の環境に早く出て行きたいと、ずっと思っていました」

自「黒山家には、世界へ行かなきゃいけない空気があったんじゃないですか?」
陣「それはわかっていましたが、やっぱり行く前はなんというか、ひと事じゃないんですが、ちょっと自分のことじゃないみたいな感じで、行ったら、これは行かないと、ということになりました」

自「完璧だと思って準備していたのに、足りなかったのはなんですか?」
陣「世界へ行くのに、125ccでできる限界をいろいろ試して、そこまではやれていたと思います。ヒルクライムやステアケースは、125ccの限界まで攻められました。ところが世界の125の限界は、パワーを振り絞っての限界ではなくて、125にしかないグリップ感をどこまで使えるか、だったんです。ジョージ・ヘミングウェイは、そこがめちゃくちゃうまかった」

自「125にしかないグリップ感?」
陣「300ccのような、アクセルを開けないところでのグリップ感というのではなくて、めいっぱい回して上まで上がって戻したあとの、低回転のグリップです。125といえばぶん回して挑む感じがしますよね。もちろんそういうところはあるんですけど、T3で求められるのは、もっと細かいところでの完璧さなんです。自分は確率が悪かったな、詰めが甘かったなと思います」

自「その確率を上げるにはどうしたらいいんでしょう?」
陣「世界のT3は、ぼくの思うには、レベル的にIASとIAの間くらいです。いけるかいけないか、といわれたら、いけます。いけるけど、100回やって100回できるかという勝負になります。しかも、100回の1回の失敗が1回目に出ちゃだめです。2回しか走らないんですから、1回目から完璧にできなきゃいけない。それが125クラスの勝負の鍵なんだと思います」

自「日本のIASは、125で走れますか?」
陣「どうかなぁ? 北海道はいけるかなという気がします。高い第2セクションとかは厳しいかもしれないですけど、全体的にはなんとかいけそうです。ただ北海道に限らずIASを走るとなると、かりっかりに回して走ることになります。トライアルっぽくなくなるかな? という気はします。

自「今シーズン、T3は最終戦まで組み込まれることになりましたね」
陣「もともとは、イギリスにはT3は組まれていなかったんです。だから前半だけ走ってT3を全戦走って、帰ってきてから今度は全日本に集中する算段だったんですが、イギリスが125の最終戦になったので、向こうのシーズンが長くなりました」

自「それは予定が外れた?」
陣「ちょっとたいへんでした。向こうの人はもっと早く情報が入ってるのかもしれないけど、ぼくらには入ってきませんから、発表になってからあわてました。当初は1回行って全戦走って帰ってくる予定だったんですが、イギリスだけ別に行くことになりました」

自「今年はT3のチャンピオンをとると。チャンピオンをとったら来年はT2に?」
陣「来年はT2です。チャンピオンはとりますけど、とってもとらなくてもT2です。だからT3は今年が最後です。それで自分にプレッシャーをかけていこうと思っています。

自「来年は16歳になるから、T3にはもう出られない?」
陣「いや出られます。21歳まで出られるはずなので、まだまだ出られるんですが、来年はT2です」

自「ジョージのうまさについてはさっきも聞きましたけど、もうちょっと聞きたい」
陣「とにかくうまいです。みんなうまいですけど、トニー・ボウを見たときと同じ感情を抱いたのはジョージだけでした。見ていて、気持ち悪いと思うくらいです。ただ、去年ショックを受けてきて、それで帰ってきてからしっかり練習したので、ぼくも去年のジョージのところまでは来ていると思っています。去年の選手は残っている。ジョージはいない。だからぼくがジョージと同じになってれば、勝てるということになる。パブロ、シム・ユアンとか、去年勝ったり負けたりしたライバルは、ジョージほどの驚異ではないです。うまいんだけど、こいつはビッグステアが苦手だな、とか、バランス悪いな、というように、いいところ悪いところが見えました。もちろんぼくも成長しているけど、向こうも成長してるだろうから、そんなに簡単じゃないかもしれませんが」

自「T2は来年にならないと出られない?」
陣「16歳になったら出られます。6月に誕生日がきて16歳になるんで、6月からはT2に出られる。でもそれまではT3にしか出られない。だから今年はT3です」

2025開幕戦スペイン大会は1日目4位、2日目2位。黒山陣は現在ランキング2位(Photo:Pep SEGALES)

自「去年の、世界選手権初挑戦の時の印象を、もう少し聞かせてくれる?」
陣「正直、現場に行くまではこわかったです。こわいというのは、セクションがあぶないとかそういうことじゃなくて、なにが起きるのか、という漠然とした恐怖です。世界の雰囲気にのまれないか、とか。ところが実際には、すごく楽しかった。

自「そういうこわさは、今でもありますか?」
陣「今はそういうこわさはないです。行くまでがこわくて、向こうの連中とウォーミングアップをいっしょにして、それでこわさがだいぶなくなったんだと思います。だから試合の時にはもうこわさはなかったんですが、試合が始まったら始まったで、今度は試合のこわさが出てきます。全日本を走るときのあのこわさと同じです。試合に対してのこわさは、もう一生ついて回るんじゃないかと思いますが、世界選手権だから、と言うこわさはありません」

自「全日本と世界とは、やっぱりちがいますか?」
陣「ぼくか思うには、似ています。GPでは、ところどころ、ありえないくらいにあぶないのが出てくるとか、というのはあります。日本のトップ3はなんとかなるけど、それ以外はあぶないから出たらあかんよ、と言いたくなる感じです。基本的にT2はとにかくレベルが高いです。GPはもちろん、T2は全日本より明らかにレベルは上。デ・ナシオンはT3よりレベルは低いと思います。もっと高いレベルで走りたいという欲はありますけど、デ・ナシオンについては、そういう選手はGPを走るので、しかたないです。デ・ナシオンのインターナショナルクラスは、参加選手の幅の広さを考えると、ちょうどいいと思います。セクションは、なんなら125のほうがいいかもしれない。パワーが必要なセクションがひとつもなかったから、125のほうが滑らないだけ楽かもしれません。去年で言えば、下見したときよりやさしくなってた。下位の選手の安全を考えての変更みたいですが、あとから思えば、そのほうがよかったなと思います。ふたつだけ、日本のスーパーと同じくらいのセクションがありました。でもそのふたつもあぶなくないむずかしさでした。だから素人さんみたいなのが走っても、死ぬような思いはしなかったと思います。水に落ちてびしょ濡れにはなってましたけど」

自「陣くん自身の自分に対してのはどんなだった?」
陣「その難しいセクションを、毅士さんがクリーンしてくれたので勝てたんです。ぼくは1点でした。1点だから悪くはないのかもしれないけど、優勝を引き込んだ、という決定的な仕事をしたとはいえません。ほかのところで、他のメンバーの凡ミスを助けたことはできたので、ぜんぜん足を引っ張ったでもなく、最低限のことはできたかなと思っています」

自「トライアル以外の、ヨーロッパの印象はどんなでしたか?」
陣「ぼくは好きです。歩いてたら、ちょっとした丘のところにあきらかにオートバイが走った跡があったりしました。バルセロナの近くのテレッサというところです。モンテッサとかも近い。去年行ったのは、拠点のスペインからイタリアとアンドラです」

自「アンドラは標高が高いけど、125ccは走るの?」
陣「走りません。アンドラは、本当にパワーを振り絞る感じになります。去年はファイナルを後ろ40丁で走ったんです。日本で125に乗っていろいろ試して、ビッグステアを上がるようにと選択したのが40丁でした。ところがビッグステアはなくて、40丁では小さなステアが上がれないということになりました。細かい加速ができなかったんです。43丁で走っておけば、もうちょっと走れたかもというのはありました。スタンダードは43丁なんで、今年はリヤサス以外は全部スタンダードでいくことにしました。40丁を選んだのは、もっとステアバンバンセクションだと思ったんですけど、意外にマジメなセクションが多かったんです」

自「125というマシンの性能については、もう把握ができている?」
陣「125の限界はわかってきたんで、その限界の中でどこまで使えるかという取り組みになっています。去年から今年、けっこう下のパワーがあることがわかってきました。そこを使うと、300ccとはちがう、下のパワーを使った行き方ができるんです。振り絞って行った後のぼっという感じの下です。125じゃなければ一発であがるんですが、125だとそれでは行けなかったりするので、最後にぽっと足してやって行く、みたいな。最近ようやくわかってきました。その成果を持って、ヨーロッパで乗るのが楽しみです」

自「125にはしっかり乗り込みができた?」
陣「この1月1日から125しか乗ってません。去年のシーズン終わって、ある程度実力を上げるために300に乗って、今年になって、その上げた実力の80%を125で出せるようにと。そんな計画です。80%を出し続けることができれば、去年のぼくの100%になります」

自「125と300、どっちが好きですか?」
陣「125でも300でもどっちでもいけるなら、125を選ぶかな? 滑るところはアクセルワークに気を使います。125はその点、あんまり気にすることがない。でも実は、そういう慎重なアクセルワークを300でできるようになったら、一気に実力を上げられると思うんですね」

自「世界に舞台を移して、全日本はお休みというか、メインの活動舞台ではなくなりますね」
陣「当初は、というか去年あたりまでは、世界に行くのは全日本でタイトルを取ってからだと思っていました。だけど、タイミングも大事だということも学びました。藤波さんは全日本チャンピオンをとってから世界へ行っているけど、おじさんはそうじゃなかった。そういう昔のいろんな話は、おじいちゃんから聞いていました。今は今できることをやろう、という思いです」

自「陣くんの人生設計は、どんな感じだったの?」
陣「高校1年生で全日本チャンピオン、と考えていました。高校にも行きませんけど、その予定は果たせないのは決定しました。そういう予定だったので、今年は世界に出るつもりはなかったんです。でも去年走ったら、出たい気持ちがすごい強くなってしまいました」

自「1年目のIASは、自己採点では何点くらい?」
陣「ランキング自体は気にしてないんですが、シーズン後半には2回くらい表彰台、せめて6位以内には上がりたかった。でも結局1回も上がれなかった。そういうチャンスもあったんですが、それをものにできなかった。だから、ちょっとね、という感じです。6位2回くらいあったら、まぁぼちぼちだったかな、という評価になると思います」。

自「全日本でのそのもうちょっと、というのは、技術面に不足がある? それともメンタル面?」
陣「メンタルだと思います。スーパーだ、という緊張感じ強くて。SSの緊張感がまたへんな感じです。試合慣れは大切なんだなとあらためて思いました。

自「今年、トライアルGPではSSみたいなのができますね?」
陣「世界のSS、T3にはないと思うけど、ただ、そういう情報が日本にいながらにして得るのはまだ難しい感じです。もっと早く情報を得る方法もあるんでしょうけど、まず言葉を覚えないといけません。そういうところ、長年の結果でもあるけど、藤波さんはすごいなぁと思います」

自「廣畑くんの言葉はどう?」
陣「ぺらぺらです」

自「陣くんは?」
陣「ぜんぜんです」

自「今、中学校を卒業したところだよね?」
陣「はい。卒業式で、中学生は終わりました。高校には行かないんで、もう学校には行きません。ぼくは陸くんよりはもうちょっとちゃんと学校に通いました」

自「学校の成績はどんな?」
陣「テストは、いいほうで15点くらい。1年生の頃は30点くらいとれたんだけど、ヨーロッパ帰ってきたら0点になりました」

自「その成績は、学校の勉強をする頭が悪い? それとも訓練が足りない?」
陣「訓練だと思います。ぼく、実はできると思います。小学校の時は95点とかしかとったことないので、できると思うんですが、やってる時間がありません。今は、πってなに? って感じです。英語も15点です。英語はできなきゃいけないと思いますが、中学の英語って、筆記が多いんですよ。去年のライバルとは、英語と効果音で話をしてました。ブッブッ、ビーン、なんて感じで。ただこういうのは、トライアルをしている同士なら通じるけど、スーパーに買い物に行ったら別の会話能力が必要になります。トライアルでも、このオブザーバーは厳しいからバックに気をつけろよ、なんて会話をするには、もうちょっとなんとかしないといけません。英語もですけど、ヨーロッパなんで、最終的にはスペイン語かイタリア語か、話せるようになりたいです」


自「ぺらぺらの廣畑選手は、どうやって言葉を覚えたんでしょう?」
陣「向こうに行ってから覚えたということです。行ってから、すごく遊んだと言ってました。トライアルの練習とかじゃなくて、ガブリといっしょに遊んでて覚えたということです」

自「陣くんも遊びながら言葉を覚える予定であると」
陣「そうです。今は中学の英語15点のまんまですが、これからはスペイン語も覚えたいし、去年帰ってきてからちょっと勉強したんですけどやっぱりだめでした。だから現地で話しながら覚えていくしかないなと腹をくくっています」

自「世界選手権、おじさんからはアドバイスがあり?」
陣「向こうには悪いやつがいて、オイルかけたりワイヤー切ったりするやつおるしな、と言われてました。ほんとにやられたのかどうかは知りませんけど、さすがにそういうのは感じられませんでした。時代は変わったんだろうな、と思っています。いい人しかいません。悪い人はどんどん消えていくんじゃないでしょうか?」

自「陣くんもいい子ですよね?」
陣「あー、うちは、一郎さんがああいう感じだったんで、黒山家イコール最悪というイメージは知ってます。それはいやだなと思って、一郎の孫ではなくて、黒山陣として認めてもらうようにやってます」

自「若いうちはもうちょっと悪くてもいいんじゃないかと思ったりするんだけど……」
陣「おじさんとか一郎さんにも、もうちょっと飛び出した方がおもしろいって、割とよく言われます。今の年にしかできないからって。でもこういう性格だから、これしかできないですね」

自「性格なのか……」
陣「一郎さんに、もっと悪くなれと言われても、それはあなたがいたからぼくがこうなっていると言いたくなるんですけど、小さい頃からお母さんがいろいろやってくれたんですね。自転車トライアルは1年ちょっとしかやってませんけど、大会に出かけると、黒山だからって調子乗るなよ、みたいな感じでけっこう言われて、お母さんが、あたしら、なんもしてないのになんでそんなこと言われなきゃいけないのって、それから回りに対してもぼくに対しても、いろいろやってくれました」

自「黒山家バージョン2ですね」
陣「もちろん聞いただけですけど、昔はお父さんも、自分の意志がなかった、人間じゃなかったって聞いてます。最近は、息子のぼくが言うのもなんですが、びっくりするくらいちゃんとしてます」

自「それもお母さんの躾けかな? 黒山家には、カラスもいるんですよね?」
陣「カラス、います。カラスって、すごく頭がいいんです。絶対お父さんより、カラスのほうが頭がいいです。カラスにエサを上げてるのはお母さんなんで、お母さんにはなついている。ぼくらには噛みついてきます。ところがこの前、お母さんが家の用事で3日くらいいなかったことがあったんです。そしたら次の日から、ぼくにだけかみつかなくなったんです。お母さんの代わりにエサをあげるのがぼくの役目だったから。他のみんなはかみつかれてました。でもお母さんが帰ってきたら、また噛みつかれるようになりました。頭いいなぁと感心しました。ふだん、カラスはお母さんに甘えて鳴いたりしてるんですけど、お母さんがまじめな話してると、いつまでもおとなしくしてるんです。ちゃんと空気を読むんですね。

自「すごいね、カラス」
陣「うちのカラスは、それでも頭は使ってないと思うんです。自然のカラスはもっと頭を使わないと、生きていけない。うちのは、おとなしくしていれば食べるのは困らないですから、楽して、頭使ってないと思うんです。それでも、あの子は頭がいいですけどね」

自「世界選手権へはお父さんと行って、マインダーはお父さんがやるんだけど、陣くんはお父さんと陸一(りくと)くんと、どっちと走るのがやりやすい?」
陣「ぼくは陸一がいいです。ライン指示はお父さんがうまいんですが、つかむスピードは陸くんのほうが……。これはおじさんも認めているところです」

自「つかむスピードは技術の問題? それとも?」
陣「お父さんが年取ったからです。今のところ、それで問題が出るほどではないんですが、どっちが上かといわれれば、陸一ですね。あとは試合配分ですかね。後ろタイヤを上げて落とすところで、お父さんは落ちる前に指示をくれるんです。陸一は、落ちてから一泊あって指示が出るんです。そういうところ、ぼくもですけど、ぼくたちはまだまだ成長するところがあるんです」

自「世界選手権でお父さんが行っている間は、おじさんと陸一くんが組むんですよね」
陣「そうです。でもおじさん的には、調子がよかったらそのままシーズンずっと陸一でいきたいって言ってます。どうなるんでしょうね」

自「取りあい?」
陣「そうです。取りあいと、マインダー本人の意思になるんでしょうね」

自「陸一は、世界選手権はいつから行けるの?」
陣「来年は陸一と二人で行きます。ぼくが未成年だから、保護者がいっしょにいないといけないんですけど、来年は陸一が18歳になるから、保護者になれるんです。陸一はこの12月10日に18歳になるんで、そしたらすぐに教習所へいって、免許を取ります。当初は、陸一が18歳になるのを見込んで、T2からヨーロッパを走る予定だったんです」

自「黒山陣は、どんな走り方をするライダー?」
陣「ぼくは、けっこうきれいに走るって言われます。でもミスをして崩れたらきたない走りになります。そう言われる自覚はあります。走り方は人それぞれで、太陽は走りが強いんですね。強いけどきたない走りをします」

自「ガッチvs藤波貴久、みたい」
陣「あー、そんな感じです。そう考えると、太陽もあなどれないですね」

自「太陽くんは陣くんに勝つ気満々ですね」
陣「いまのところ、負ける予定はないです。想像できない。太陽は昇格がぼくより4ヶ月早かったから勝ってると言いたいらしいけど、それはぼくより4ヶ月早く生まれたからで、そこは勝った負けたじゃないと思ってます。それに昇格しただけで、優勝したりチャンピオンとったわけじゃないですから。でも太陽がすごいところは、走りが強くて、タイミングがワンテンポちがうんです。早いわけでも遅いわけでもなくて、走りが強い。どーん、どんとくる。それが太陽なりのいいライディングだと思います。いいライディング、だと思うけど、結果はクリーンするかどうかですからね」

自「家族みんなで勝負をしたことはあるの?」
陣「ないですね。お父さんと陸くんとぼくと太陽と4人で、というのはなかなか機会がありません。ぼくとお父さん、陸一と太陽が勝負するのはよくありますけど。陸一と太陽は近畿選手権を全戦走ったんで、いつも勝負してましたね。その勝負、見てる方は楽しいんですけど、太陽は勝てば勝ったで喜んでる。でも陸くんはふだん練習してなくて、太陽は練習ばっかりしているから、陸くんがかわいそうですよね。太陽は勝ってあたり前です」

自「日本のライダーとはたいていいっしょに乗ったことがある?」
陣「ボス(おじさん)はもちろんですが、政哉さんとは乗ったことがあります。小川さんとは一回も乗ったことがないんです。だからまったくわからないです。一度いっしょに乗ってみたいですね。いろんな走りを見てみたいです。とりあえず小川さんが乗っているとこころは見てみたいです」

自「現在のところ、いっしょに走ったみんなの走り方を解説するとどうなるでしょう?」
陣「政哉さんはすごくうまさがありますが、うまさの六角形があるとすると、一ヶ所だけ飛び抜けている感じがします。ダニエルとかステアケースとかですね。おじさんはけっこう全体的に均等にうまいです。たぶん小川さんもそんな感じなんだろうなと思います」

自「人のライディングとかはよく分析する方ですか?」
陣「いいえ、昔はこういうの、まったくわからないタイプでした。そういうところ、ちょっと研究できるようになったので、少しは進歩しているのかな。IA走ってる頃はまったくわからなくて、効果音でしか話ができませんでした。

自「今はもうだいぶわかるようになってきた?」
陣「いまでも、タイヤのちがいがあんまりわからないです。やわらかい、かたい、くらいはわかるんですけど、空気圧の変化はわかんないと思います。たまにパンクしても気がつかないです」
自「そりゃすごい。気がつくようになった方がいいのかな?」
陣「気がつかないでいいとすれば、ハンドルが曲がっても走れるかもしれません。でも気がつければ、ウォーミングアップでなんかおかしいと調べてみたら、クラックを発見できた、なんてことがあるかもしれません。たぶん、気がつく方がいいんだとは思います。

自「整備はできる? 黒山家は、ライダーは整備するなの家訓だっけ?」
陣「整備はします。でも整備をするといっても、タイヤ交換とかレバー交換くらいしかできません。黒山家にはライダーはさわらなくていいという空気はありますけど、ライダーもエアクリーナー交換とかタイヤ交換くらいできれば整備時間が半分になるりますよね。スタートしたらマインダーさんとライダーしかさわれないから、勝敗にかかわってくることもあると思います。ふだんからやらなくても、やろうと思ったらできる、くらいでもいいから、整備もできるようにしておきます」

自「おじさん、黒山健一選手に勝てるところはありますか?
陣「うーん、ダニエルは勝ってるかな? 今日本でダニエルが一番うまいのは政哉さんだと思うんですけど、ダニエルって、かっこいいけど、世界選手権でもそんなに使うわけではないんですよね。実用的な技では、健一おじさんにはまだ一つも勝てていません。勝ちたい気持ちでいっぱいだけど、なかなかそう簡単には勝てません」

自「健一さん、ガッチさんとジョージ・ヘミングウェイを比べたらどうなりますか?」
陣「どうでしょう。同じくらいか、ジョージが勝ってるんじゃないか? 300ccに乗ってる動画を見てもそんな感じがします。去年、T3でチャンピオンとった後に出たT2でもいいところに入っていたから、成績から見てもそんな感じじゃないでしょうか。ジョージは先にT2へいっちゃったから、今年のチャンピオン争いでは敵にはなりませんけど、将来を考えると、永遠のライバルになるんじゃないかという気がしています。早くいっしょに乗りたいし、どういう練習をしたらああなるのか、知りたいです」

自「トニー・ボウは、やっぱり別格ですか?」
陣「あれは化け物です。それでも、アダム・ラガにしてもガブリエル・マルセリにしても、まだまだぼくが言えるレベルではないです。ボウについては、いずれ倒す予定でいますけど、それはナイショ。いまはまだそんなことを語るのは10年早いです。10年後、トニーが48歳ですか? そういう面ではぼくは運がいいかもしれません。10年後、ぼくは今のマルセリくらいの年齢になっています。5年後にはGPクラスのトップ争いをするつもりでいます」

自「勝負の始まりですね」
陣「そうです。わいわいやるトライアルは終わりました。去年は正直、結果は出しても出さなくてもいいトライアルでした。今年はちがいます。プレッシャーを受けてのトライアルは、今までやったことがないんです。やったことはないんですが、そういう環境に入ったら、それでやるしかないと思ってるので、やります! 未知のものはやってみないと、ね」