なんでもそうですが、スポーツのルールはテクニックや道具の進化にともなって、どんどん複雑になってきます。選手はルールにのっとって勝敗を争うために、ルールを熟知している必要があります。
でも特にトライアルはむずかしいです。もうありとあらゆるルールがむずかしいのですが、その中でも特にむずかしいのが、ループです。
先だって、特異なケースでのジャックナイフでループ、の記事(ちなみにこちらです)を書いたあと、ご意見をいろいろもらって、特異なケースでのループの解説の前に、まずループとはなにか、という解説をしなければいけないということに気がつき、記事を作らなければいけないと思っていたところです。遅くなっていて、ごめんなさい。
で、ループについてです。
ルールはときどき変わるもので、最近のスペイン選手権ではループは減点とならない、みたいなこともあるのですが、日本のトライアルでは、伝統的にずっとループは減点5となっています。
ループを画像検索したら、こんなのが出てきました。
有名な河津七滝ループ橋です。こんなふうにぐるぐると輪っかを作るのがループ、ということです。
昔々、サハラ砂漠のパリダカールラリーの取材に行った時にみかけたのは、ふかふかの砂丘にトライしてのぼれないとき、砂丘の手前の平坦地でぐるぐると旋回をしてスピードを蓄え、充分なスピードを得てから一気に坂を登りきるというテクニックでした。
その際には、いろんなテクニックを臨機応変に有効に使うもんだなぁと思ったのですが、トライアルでは、このテクニックは通じません。ループが禁止されているからです。そしてトライアルの場合、七滝ループ橋のようにぐるぐると回らなくても、1回回っただけでも5点です。
右ターンが苦手でも、そこに少しスペースがあるなら、左ターンをし続けることで右に方向を変えられるかもしれない。特に最近は、いろんなクラスを一つのセクションで走らせることが多いから、セクションは広めに設定されていることが多い。となると、セクションの中をまめにチェックすると、こういうラインが見つかっちゃったりするわけです。でもできないんです。それがループ禁止のルールです。トライアルではぐるぐる回るではなく、タイヤの軌跡によって定められているのです。
ルールブックを見てみましょう。MFJ(日本モーターサイクル協会)の競技ルールは、競技ライセンスを取得するとしっかり製本されたものが送られてきますが(エンジョイライセンスを取得した場合は残念だけど送られてきません)MFJのサイトからはどなたでもPDFファイルを閲覧することができます。トライアル場でルールに疑問が生じた時にもスマートフォンで見ることができますから、ぜひご覧になってください。
[browser-shot url=”http://www.mfj.or.jp/user/contents/motor_sports_info/rule/rule.html” width=”580″ height=”200″]でもね、規則書というのはいわば法律ですから、法律を勉強した人にはすらすら読めるかもしれないけど、自然山通信とマンガくらいしか読まないワタシとかには、ちょっとむずかしいところもあります。
これが、該当するループの記述箇所です。参照ファイルはこちらです。
http://www.mfj.or.jp/user/contents/motor_sports_info/rule/pdf/2016/husoku19.pdf
読んでみます。
11-2-3-17
車両でループ等をおこない、その軌跡を前後輪で横切った(接触を含む)場合。
たいへんシンプルです。個人的にはあんまり上手な日本語ではない気がしてしまいますが、法律には詳しくないので、法律文としてはそれでいいのかもしれません。
勝手にわかりやすいように解釈すると、軌跡を前後輪で横切ったらループとなって5点、ということです。
オートバイはタイヤが二つあります。オートバイが走っている場合、多くは軌跡は1本しかありません。後輪は、前輪が通ったところをトレースして通過していきます。
ところがトライアルでは、低速でターンをすることが多く、この場合、内輪差が発生して、前輪の軌跡と後輪の軌跡は異なることが多くなります。
へたくそな絵を描いてみました。低速ターンをしていると、こんなふうにフロントタイヤとリヤタイヤ、軌跡は2本残ります。
軌跡が軌跡をまたぐことがループだとすると、ループには以下の3通りがあるということになります。
※すいません。図の中に進行方向を書き忘れました。3枚の図は、いずれも左側から進んでくるという図です。右方向、もしくは上方向から進んでくるとなると、話が変わってしまうやつがありました。ごめんなさい。
1.1本の軌跡を1本の軌跡が踏んでいく。
この場合はフロントタイヤの軌跡をフロントタイヤが踏んでいっています。リヤタイヤの軌跡は接点がありません。
2.1本の軌跡を2本の軌跡が踏んでいく。
フロントタイヤの軌跡を、まっすぐに横切りました。フロントタイヤの軌跡を前後輪が踏んでいったことになります。
3.2本の軌跡を2本の軌跡が踏んでいく。
2.の場合と同じようなラインどりですが、少しだけ進路を外れて、前輪と後輪の軌跡を、前後輪が横切ることになりました。
この場合、1〜3までのどれが5点となるかというと、2と3です。1は減点とはなりません。
※進行方向が逆だと5点にならないのは2の場合です。両輪の軌跡を、フロントタイヤだけが踏んでいっています。描きたかったのは左から進んでいた絵でございました。
ところがこのルール、規則書の書き方がもうちょっと親切だったらと思うのだけど、誤解をされている人が多いみたいです。
規則書には「軌跡」を「前後輪」で踏んだら5点と書いてあります。踏まれる軌跡が前後輪どちらか一方なのか、両輪なのか、書いてないところがちょっとわかりにくいです。
誤解の中には、世界選手権ではどちらか一輪を両輪で踏んだら5点だが、日本では両輪を両輪で踏まなければ5点にならないというものもありました。この点をトライアル委員長の西さんに質してみたところ、そういう解釈が出たことはないということです。個々のライダーやオブザーバーさんが、それぞれに誤解をしていた可能性はありますが、あくまで個々の誤解であるということのようです。
「軌跡」を「前後輪」で踏むと5点、という条文は、しかし一見わかりにくいのですが、踏まれる側が「軌跡」で、踏む側が「前後輪」と書き分けてあるのは、踏まれる側と踏む側とがちがうからです。もし前後輪の軌跡を前後輪が踏むと5点だというなら、条文では前後輪を前後輪で横切るとループと書いてあるはず。なのでここに書かれている「軌跡」は、前後輪を問わず、どちらかの一方の軌跡、と思うべきのようです。
前後輪を前後輪が踏んだら5点だと誤解されていた皆さんには、実はホントのルールはもっと厳しいのだということになりますが、前後輪がしっかり軌跡を踏んだことが確認できなければ5点の減点はとれない、という意味でもあると思います。そういう点で、先に紹介していた「ジャックナイフで5点」のケースは(けっこう特殊なケースではありますが)5点の判定がしやすいケースであるということなのでした。
ループについての規則の解釈は以上ですが、もし誤解をされている人がいたら、これが正解です(2016年現在)。
ただし、トライアルの採点は人がおこなうものですから、はっきり判明しなければ判定はできません。なので一輪を前後輪で踏んだかもしれない、ループとなっている場合でも、採点が5点となっていないケースも多々あるかと思います。これが、一部の誤解があらためられないままになっている理由のような気がします。
タイヤの痕跡がしっかり残っていればいいのですが、ループの判定には、タイヤがどこを通ったかをしっかり覚えておく必要があります。なのでどんな採点がされたのかは、第三者から見てもなかなかわかりにくいし、ときにはオブザーバーからも判断がつきにくい。
そういうむずかしい判断を強いるルールはライダーにもオブザーバーにもお気の毒だと思うのですが、現状ではそれがルールです。オブザーバーが減点をとらないからといって(オブザーバーが誤解していることもあるでしょうが、はっきり確認できないという理由も多いかと思います)ルールに反した走りをしてもいいかといえばそんなことはないし、ルールはやっぱりちゃんと知っているに越したことはないと思います。
残暑厳しい昨今ですが、皆様、どうぞよろしくお願いします。
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