オートバイの魅力は、曲がることと覚えけり。峠道なんて、楽しいことこのうえない。でもトライアルとなると、曲がるのがきらいな人、苦手な人はとっても多い。先月のつづきで、今月はターンとはなんであるかについて考えるのココロだ〜
という書き出しで、バイカーズステーション誌2007年6月号に発表したもの。
全日本選手権でも草トライアル大会でも、くねくねとターンするセクションは評判が悪い。トライアルライダーは、曲がったことがきらいで、男らしくまっすぐ障害にぶつかっていくのが好きらしい。100年の伝統のイベントSSDTはセクションのすべてがまっすぐの沢登りというのがひとつの特徴で、曲がったことがきらいな人たちの羨望の的だ。
ただ、だれしも得意なことは好きなこと。運転のへたっぴな初心者はつづら折れの峠道を敬遠するけど、ちょっとじょうずになって楽しくてしょうがなくなると、好んで峠をめざしてしまうあなたがいる。ターンがきらいというのは、ターンがへたっぴだからじゃないでしょうか。
ところで、ターンってどんなアクションのことをいうんでしょう? ここで物理的なもろもろを持ちだしてくるとこむずかしくなるのでそういうのはやめて、まず姿かたちから見ていきます。
トライアルのターンは舗装路でターンするのとずいぶんちがうかっこうをしている。リーンアウトのフォームとよく言われるけど、お尻をつきだして、ターンするマシンより外側に人間がいる。おんなじようにリーンアウトで曲がっていくモトクロスなんかでは、内側の足を出していくことが多いから、リーンアウトといっても、ずいぶん様子はちがう。第一、トライアルはライダーが立っている。そして決定的なのは、ハンドルが大きく内側に切れている。舗装路でこんなに舵角を与えたら、その瞬間に吹っ飛んでます。コーナーの外側に。
そう、吹っ飛ぶのはコーナーの外側なんですよね。痛いから実験はお勧めしませんけど、知識はあったほうがいい。オートバイって、ハンドルを切ったほうと(正しくは、ハンドル切ろうと力を与えた方向、かな)反対側に倒れ込むようにできてます。それはハーレーでもトライアルマシンでもいっしょ。
これ、スタンディングスティルの訓練をすると、とってもよくわかる。実験はお勧めしないと書いたけど、峠で実験するから痛いことになるんで、痛くないなら実験したほうがいい。それが、トライアルってわけだ。スピードでてないから(あんまり)痛くない。
トライアルでも、あるいは歩くようなスピードでUターンとかするとき、たとえば右に曲がろうとしてハンドルを右に切る。なんの疑いもないと思いますけど、その結果なにが起こるかというと、オートバイは左に傾いちゃうんですね。
この理屈を知らないと、右に曲がりたい人間と、左に傾くオートバイの力が合体して、いつまでも曲がれずにまっすぐ走ります。超極低速でのターンが苦手な人って、これがわからず、格闘しているんです。
じょうずな人はどうしてるかというと、理屈がわかってなくても、からだが自然に正しいアクションをやってくれる。人によっては膝を進行方向に向けるというし、ハンドルを左右ではなくて上下に操作するというし、いろいろです。でも理屈はひとつ。
オートバイは、傾けると曲がるものです。傾けなくても曲がる場合もあるけど、傾ければ曲がりやすいのは確実。そして右に傾いたオートバイの前輪は、なぜか勝手に右に切れ込んできます。これも、そういうふうにできている。人間が右に切ればマシンは左に傾くのに、マシンが右に傾くと前輪は右に切れ込む。人間に操作されるのが、どうやらオートバイはおきらいの様子。オートバイって、へそ曲がりなのかもしれません。これが、先生たちが言うセルフステアってことなんだけど、自動操縦とはちがうから、かんちがいしないでね。
で、ふつうオートバイが旋回するときには遠心力(遠心力と向心力って、いつもこんがらがります。ややこしい)ってやつが働きます。これに対抗するために、ライダーは人車一体となって傾くのがふつう。でもトライアル(とか超極低速のUターン)ではスピードが低いからこれが少ない。なんで、いつもの調子でマシンといっしょにからだを傾けると、内側にぺたんと倒れ込んでしまいます。多くの立ちごけの多くは、たいていこれだ。
立ちごけしないようにするにはどうしよう。人間が外側に位置していればバランスがとれる。ってわけで、トライアル(とか超極低速のUターン。しつこい)ではリーンアウトのフォームをとることになるわけだった。
マシンの外側というと、お尻をつきだすトライアルらしいフォームになっちゃうけど、止まるようなスピードの場合、ライダーは地面に対してほとんど垂直になってます。オートバイだけ勝手に(少しだけ)倒れている。リーンアウトも、やればいいってもんじゃなくて、適切なときに適切なアクションで、というのが鉄則。お尻をうんと突きだすのは、その必然性があるからで、トライアルのターンがこうでなければいけないということじゃありません。これも、けっこう誤解されていると思う。
無意識のうちに「気持ちいい〜」と叫んで楽しんでいたコーナリングも、実はこんなしかけでやってたんだと発見すると、愛車と自分のライディングテクニックに、あらためて愛着が持てるようになる(といいですね)。