雪は降ったって春は春。シーズンは開幕してます。えいえいおー

トライアル事始

<BS>トライアルへの誘い01

おもしろくてむずかしい。それがトライアルってもんだ
これは、バイカーズステーション誌に連載しているものです。パイカーズステーション誌は印刷もきれいなので(もちろん自然山通信とちがってカラー)ぜひ本誌でごらんになってください。

黒山健一フローティングターン

 トライアルっていうと、みんな、とってもむずかしいものだと思っている。某BS誌のS編集長も「おれなんてなんにもできないしさ」と逃げ腰でいらっしゃる。でもしかし、トライアルはオートバイライディングの基本であると、どこかで誰かに聞いたことはないだろうか? そのとおり。トライアルは基本だから、トライアルができないのにオートバイに乗ってては、危険があぶない。
 それでも、みんなトライアルに手を出さないのは、自分の身の丈にあったトライアルを見つけられないからだ。テレビ(最近は、CS放送で世界選手権や全日本選手権を見ることができる)や雑誌で紹介されるのは、頭の上まで一気に飛んでいくような、腰をぬかさんばかりの達人の技ばかり。あんなもの、誰もがまねできるわけがないし、ましてS編集長にやってもらおうなんて思ってない。デモ「トライアルやりませんか」と誘われると、あんなことさせられちゃうと思っちゃうんですね、みんな。

平地に座布団セクション

 ところが、3mの断崖絶壁を駆け上がらなくても、平らな地面の上にほんの少し土が盛ってあるだけで、あるいはほんのちょっとの石ころがあるだけで、てきめんにむずかしい。S編集長、なだらかな石ころの山を越えていく右の写真をご覧になって「こんな平和なところだったら、おれでも走れる」とおっしゃった。そうです、S編集長にやっていただきたいのは、まさにこれ。平地に座布団セクションです。でもばかにしちゃいけません。これが意外と、むずかしいのですよ。


 オートバイの基本は、走って曲がって止まることだと言われます。トライアルでも、これがきちんとできれば、まずは合格。そんなの、毎日オートバイに乗っていれば簡単だいと思うことでしょう。誰でもそう思います。じゃ、ちょっとやってご覧なさいとやってみてもらうと、みんな汗だくになって(冬でも! 真夏だったら脱水症状で死んでます)死にものぐるいで奮闘し、でもうまくいかなかったりします。
 タイヤがふたつしかない二輪車が、なぜ転ばずに走っていられるのか。それはコマの原理だといわれますね。コマは回り続けることによって転ばずにいられます。それといっしょ。二輪車も、走り続けることでバランスを維持するようにつくられてます。

トライアル散歩

 ところがトライアルでは、そうそう簡単にスピードを出させてもらえない。スピード違反なんてありませんから、いくらスピードを出してもいいんですよ。トライアルするようなところで100km/hも出すのはおっかないので、現実的なところ、20km/hも出せば、オートバイはうんと安定してくるはず。でも石がごろごろしていたり急に曲がらなきゃいけなかったりで、その20km/hが維持できません。最後には、止まるようなスピードになる。コマだったら転んでます。二輪車だって、転びます。そこを転ばずに走れっていうんだから、こりゃむずかしいわけです。
 トライアル。全日本選手権なんかを見にいくと、どのライダーも素晴らしいテクニックを発揮して、強烈な地形を走破していく。この光景は、オートバイに乗る人も乗らない人も、みんなびっくりできます。
 正直ぼくなんか、トライアルのシーンはたくさん見てしまって、最近ではそうそうのことではびっくりしなくなりました。だけどお客さんたちの反応を見ていると「どひゃー」「すげー」「信じられなーい」という歓声が聞こえてきて、おぉ、やっぱりトライアルはびっくりものなんだなと、あらためて気がつかされたりしています。
 でもね、ふつうのライダーの視点から見てもびっくりするだろうけど、ちょっとでもトライアルをやってみて、それから彼らの走りを見にいってください。百聞は一見にしかず、じゃなくて、とにかく、自分で乗っている視点からみると、こりゃまたそのすごさがちがいます。S編集長にはぜひ平地の座布団セクションを走ってみていただきたいのだけど、人によっては、その座布団を越えるのに、たいそうな恐怖心を感じたりもいたします。3mの断崖絶壁を上がれといわれれば命の危険を感じますが、絶対死にそうにない安全なところだって、こわいところはあるんです。
 で、全日本選手権なんかをそういう目でみると、こわくないところがない。断崖絶壁を上がるのもびっくりしますが、へっぽこトライアルライダーの視点からみると、こんなところにもびっくりです。
 そしてまた、もうちょっと冷静に観察すると、なんとあの人たち、おっかないところとおっかないところをつないで走っているようにしか見えなかったりします。事実、へっぽこにはおっかなくても、それが彼らにとっては簡単で確実だったりするんですね。
 なんだかわけがわかんなくなってきたって? そりゃ、トライアルは奥が深いですから、連載の1回ですべてをわかってもらってたまるもんですか。では!

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