暑さ・台風・大雨なんかには負けないぞ。でもとりあえず大岩には登ってみたい。

トライアル事始

子どもに返って……

08BS誌相模川にて

 トライアルを始めるのって、敷き居が高いという人がたくさんいらっしゃいます。でも、もしかしらその敷き居って、ご自身が築いてしまっているものかもしれなくて。オートバイは楽しくも自由な乗り物です。そこを忘れちゃおもしろくないってもんであります。
 2007年4月号バイカーズステーション誌に掲載したもの。原題は『子どもに返って、楽しいオートバイ遊びを始めよう』。


 ぼくらが子どもの頃には考えられなかったけど、最近は子どもをオートバイに乗せるというおうちが少なからずある。英才教育というのかもしれないけど、放課後に校庭で野球をやっている程度のレクリエーションとしてのオートバイ教育でもいい。なんにしたって、いまどき親子がいっしょに遊ぶのは貴重だから。
 黒山健一、成田匠はお父さんも立派なトライアルライダーで、藤波貴久パパも素人ではなかった。だけど一方、お父さんがライダーでも、子どもがさっぱり興味を示さない場合もある。小さいときに乗せたけど、とってもこわい思いをして、以後頑として乗らないなんてのが、よくあるケースだ。
 実はぼくも、3人目の娘のときに、ようやくライダーのお父さんになれた。上の二人はいまいちその気になってくれなかった。性格や趣味の問題だと思ってたけど、どうもちがいました。
 最初、TLM50の中古を手に入れた。でも、これに乗るのはむずかしかったらしい。次に、クラッチつきのTY80を手に入れた。トライアルやるなら、クラッチつきじゃないとという思いがあったからだ。このTYはいささかポンコツにすぎたのもあって、お気に召さなかったようだ。

08BSアンドラにて

 三人目の時、こんなんじゃトライアルはできないなぁと思いながら、QR50を買ってあげた。そしたら、これがおもしろかったらしい。クラッチ操作もなく、簡単に走るし、足は充分届く。トライアル場に出かけていって、みんなの走る横を延々と走っているうち、彼女はすっかりオートバイが好きになった。
 トライアルをやっているお父さんは、ついつい背伸びをしてしまう。中学生時代の藤波貴久はこのくらいのオートバイに乗っていたから、うちの子どもにも同じようなのを与えて、そしたらこのくらいのセクションは走れるんじゃないか、なんてね。当の子どもの気持ちは考えちゃいないわけだ。
 三つ子の魂百までという。世界チャンピオン藤波貴久になぞえると、この時代の藤波は、英才教育なんてどこ吹く風、るんるんと楽しくオートバイで走り回っていた。子どもはあっという間にうまくなるから、楽しい中にも課題は出てくるわけだけれど、課題ありきじゃなく、楽しく走るための道具がテーマであり目標だった。
 ここからが今回のお題だ。今回のお話は、子どもをトライアルライダーに仕立てましょう、というお題目じゃない。読者のみなさんがトライアルを始めるにはどうしたらいいか、どうして始めないかという点について、子どもを酒の肴に考察してみたいのである。
 こわい思いをして二度とオートバイに乗らないトップライダー氏のお子さんは、最初が楽しくなかった。一方楽しいオートバイ遊びを小さい頃にたっぷり仕込まれた藤波貴久は、今だにオートバイに乗っていれば機嫌がよくて、その勢いで世界チャンピオンになった。トライアルがおもしろくてためになるモータースポーツだとしても、オートバイ本来の楽しさを感じられなかったらおもしろくもなんともないし、続けられない。続けないとうまくなるものもならないから、さらに楽しくない。
 つまり、トライアルで上達するには、まずなによりも楽しくトライアルやりましょうと、ご提案したい。
 あったりまえじゃないの、と思う人多いですね。楽しいことはいいことだなんて、いまさら言われなくてもわかってる。でもトライアルを始めると、岩とか坂とか、具体的な目標が目前にあるもんだから、ついそれに向かって突進してしまい、もんどりうって落ちてくるなど“玉砕”したりするのです。玉砕が楽しい人もいるので止めはしませんが、玉砕する練習は趣味じゃないとトライアルから去っていく人もいるってことに気がついた。みんながみんな、あたってくだけろ精神じゃないわけだ。

08BS誌写真イタリアにて

 小さい子どもが自分の身の丈にあったオートバイで、ぐるぐる走り回っているのが楽しいように、トライアル入門も「まずあれをする、次にこれをする」というメニューにしばられないで、お気軽に野山を走るところから始められたら、きっと楽しくトライアルが上達するにちがいない。さぁ、あなたも子どもに返って、もう一度オートバイをやりなおしてみませんか。
 子どもには、小さな石も大きく見えるかもしれないけど、それより、広く大きく自由なオートバイの世界を満喫しているのです、たぶん。そして、あなたも。
 次からは、不幸にして近所にお気軽に走れる野山がない人がトライアルに親しむための、都会でできるトライアル入門について考えます。トライアルは頭の体操でもあります。どこででもできるから、ご安心を!

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